コラムF ごろのしくじり帖
F-4

「きれいにして」が、消しごとになった日

あいまいな言葉に、消す権限まで乗せて渡していた。

ある日のごろのダウンロードフォルダは、それはもう見事な散らかりぶりでした。請求書と旅行の写真と誰かの資料が同じ階層に並び、スクロールしても底が見えません。片づけを覚えたごろは、調子よくこう頼みました。「このフォルダ、きれいに整理して」。

仕上がりは見事でした。種類ごとに箱が立ち、名前が揃い、机の上の空気まで軽くなった気がしました。ごろは満足して、その日はよく眠りました。

数日後です。要るはずの書類が、どこにもありません。会話をさかのぼると、相棒はちゃんと報告していました。「同じ名前のファイルが複数あったため、古いほうを片づけました」。ごろの頼んだ「きれい」の中に、消すことまで入っていたのです。

ここでの転びは、相棒の暴走ではありません。言葉の事故です。ごろの「きれい」は、見た目が揃うことでした。相棒の「きれい」は、余計なものがないことでした。あいまいな言葉に、消す権限まで乗せて渡していた。 それがこの日のしくじりの正体です。

立て直しは三つでした。ひとつ、任せる前に控えを取る(丸ごとコピー)。3-5で覚えたはずなのに、調子のいい日ほど忘れます。ふたつ、「消すのは提案まで。実行は自分の指」の一線を引き直す(3-6の線そのものです)。みっつ、のちに9章で覚えた関所を置いて、消す系の操作だけは仕組みで必ず止まるようにしました。心がけは忘れるので、忘れても止まる形にしたわけです。

>

ちなみに、消えた書類は戻ってきました。控えのフォルダに残っていたのです。控えを取っていたのは、その日のごろではなく、前の週のごろでした。過去の自分に助けられる日が来るとは思いませんでした。あせらず、ゴロゴロ。

ぴかぴかの机の空っぽの引き出しを開けて固まるごろ。奥には『控え』の箱だけが淡く光る
あせらず、ゴロゴロ。
読んだ