22章 フォルダ会社編
22-4

社長の仕事は、三つだけ

AIに勝たなくていい、乗ればいい
この話を読むと

社長の自分にしかできない仕事に自分を寄せて、判断を残していけるようになります。

会社の形がそろってくると、こんどは逆に、社長のごろが手持ちぶさたになります。調べものはシラベル、下書きはカクゾウ、整理はカタヅケがやってくれる。じゃあ、社長は何をすればいいんだろう。ごろは、つい、部下の仕事に手を出したくなります。自分もちょっと調べてみようか、下書きも書いてみようか、と。

でも、ここでごろは、大事なことに気づきます。社長が部下と同じ仕事を始めると、会社は回らなくなる。しかも、調べる速さも、書く速さも、部下(AI)にはかなわない。ごろが、シラベルより速く調べられるようになる必要は、ありません。それは、勝てない勝負です。合言葉のとおり、AIに勝たなくていい、乗ればいい

では、社長の仕事は何か。ごろが行き着いたのは、三つだけでした。決める、任せる、確かめる。何をやるかを決めるのは、社長にしかできません。それを部下に任せる。上がってきたものを確かめて、世に出すか、直させるかを決める。この三つは、どれも「方向」の仕事です。手を動かす仕事は、部下に渡しきる。ごろは、自分にしかできない三つに、自分を寄せることにしました。

社長ごろが『きめる/まかせる/たしかめる』の三札を示し、押印記録が『社長日誌』へ綴じられる

三つだけでいいのかな、とごろは札を並べます。でも、この三つは、どれも部下には渡せません。何をやるか、誰に任せるか、これで世に出していいか。ぜんぶ、社長のごろが決めること。手は渡せても、この三つの判断だけは、渡さない、とごろは背すじを伸ばします。

三つ目の「確かめる」には、おまけがあります。確かめて決めたことを、一言だけ書き残しておくのです。「この案内文は、やわらかい言い方を選んだ」「この写真は、迷ったけど発信部に入れた」。これが社長日誌です。あとで似た判断をするとき、日誌をめくれば「前はこう決めた」がすぐ分かる。判断を残しておくと、次の判断が速くなります。部下(AI)は手伝ってくれますが、なぜそう決めたか、という理由は、社長の頭の中にしかありません。それを、こぼさずに残していくのが、日誌の役目です。

開きのクイズ

部署も、秘書も、部下もそろいました。さて、社長のごろが、これから自分の時間をいちばん注ぐべきなのは、次のどっち?

  • A: 部下がやっている調べものや下書きを、自分でもやって、腕を落とさないようにする
  • B: 何をやるかを「決める」、部下に「任せる」、上がってきたものを「確かめる」
実演

ごろが、京都旅行の案内文を仕上げます。まず「決める」。誰に送るか、どんなトーンにするかを、ごろが決めます。「近しい友だち三人に、気楽な感じで」。次に「任せる」。カクゾウに下書きを頼みます。最後に「確かめる」。上がってきた下書きを読み、「ここはもう少しやわらかく」と一度だけ直させて、送信は自分の指で押します。

そして、社長日誌に一言。「案内文は、かしこまりすぎない言い方を選んだ。友だち向けだから」。三つの仕事だけをやって、あとは部下に任せきり。ごろの手は、ほとんど動いていません。それでも、案内文は、ごろが決めた方向どおりに仕上がりました。

ごろはじめの一歩
  • どこで: 次に何かを仕上げるとき、自分の作業を「決める・任せる・確かめる」の三つに分けてみる
  • どうやって: 手を動かす部分は部下(AI)に渡し、自分は三つだけに専念する。確かめたら、理由を一言だけ書き残す
  • きっかけ: 「部下の仕事に、つい自分も手を出したくなった」ときが、三つに戻る合図
ごろはじめの一歩

あせらず、ゴロゴロ。社長の仕事は、たくさん働くことではありません。三つだけを、しっかり握ることです。

【著者の実話・署名だけは、自分で】 私は、下書きも、調べものも、資料づくりも、ずいぶんAIに任せるようになりました。でも、最後に「これを世に出す」と決めて署名するところだけは、自分の手を離しません。文章の最後の一押し、送るか送らないか、公開するかしないか。ここは、AIが持っていない事情を、私だけが持っているからです。読む相手の顔、これまでの経緯、まだ誰にも言っていない事情。それは、どんな資料にも載っていません。だから、手は渡しても、判断だけは渡さない。この順番を、最初から癖にしています。決めるのは、いつも私です。

実録・やってみた

ごろは、京都旅行の案内文を、いよいよ仕上げて友だちに送ることにしました。ここで、つい、自分でも下書きを書きたくなります。まず、その「手を出したくなった」場面から見てみます。

$ ls goro_shouten/おでかけ部/京都/
案内文_カクゾウ下書き.txt   (部下が書いた下書き)

ごろは、はじめ、社長の仕事を忘れて、部下と同じことをやろうとしました。

ごろ
ごろが打った文カクゾウの下書き、なんか自分でも一から書き直してみようかな。そのほうが早い気がする。
相棒
相棒の返答書き直しのお手伝いはできますが、一から書くと、カクゾウの下書きと二重になります。よければ、いまの下書きの「どこを、どう変えたいか」を教えていただければ、そこだけ直します。方向を決めていただくほうが、早く仕上がりそうです。

画面で見えること社長が手を動かそうとして、かえって二度手間になりかけている。

ごろは、はっとします。自分がやるのは、書くことじゃない。決めて、任せて、確かめること。三つに戻ります。

ごろ
ごろが打った文そうだった。じゃあ役割どおりに。【決める】送り先は近しい友だち三人、トーンは気楽に。【任せる】カクゾウ、その方向で下書きを整えて。【確かめる】上がってきたら、私が読んで直しを一つだけ出す。
相棒
相棒カクゾウとしての返答カクゾウです。近しい友だち向けに、気楽なトーンで整えました。「京都、紅葉のいい時期に行かない? 11月の平日ならすいてるみたい。日程、合いそうな日ある?」。ご確認ください。

画面で見えること社長が方向だけ決め、手は部下が動かし、あとは確認を待つ形になっている。

ごろは、確かめて、一つだけ直しを出します。

ごろ
ごろが打った文いい感じ。一つだけ、「行かない?」より「行きませんか」のほうが、この三人には合う。そこだけ直して。あとはこのままで、送信は私がやる。
相棒
相棒の返答承知しました。「行きませんか」に直しました。送信ボタンは押していません。最終確認のうえ、ご自身の指で送ってください。

画面で見えること直しは反映されたが、送信は保留され、最後の一押しは社長に委ねられている。

半分布団の社長ごろが送信を指で押しながら『社長日誌』へ一行書き、カクゾウが次の下書きを進める

最後に、ごろは社長日誌に一言だけ残します。

$ cat goro_shouten/社長日誌.txt
6/○ 京都の案内文。友だち三人向けなので、かしこまりすぎない言い方を選んだ。
  「行きませんか」を採用(「行かない?」は今回はくだけすぎ)。送信は自分で押した。

社長のごろが動かした手は、直しを一つ出したことと、送信ボタンを押したことだけ。手は部下に渡し、決める・任せる・確かめる、の三つだけを握る。そして、決めた理由を一言残す。それが、この一話のすべてです。この日はこう決めました。どんな言い方を選ぶかは、送る相手によって、そのつど変わります。だからこそ、なぜそう決めたかを、日誌に残しておくのです。

手順
  1. 仕上げる前に、まず「決める」

    こうした方がいい

    誰に・どんなトーンで、という方向を、手を動かす前に自分で決める

    ごろはこうしてみた

    「友だち三人・気楽なトーン」と先に決めてから、下書きを頼んだ。

  2. 手を動かす部分は「任せる」

    こうした方がいい

    自分で書き直そうとしない。方向を渡して、下書きは部下に作らせる

    ごろはこうしてみた

    一から書きかけて二度手間になりかけ、カクゾウに任せ直した。

  3. 上がってきたものを「確かめる」

    こうした方がいい

    全部書き直させず、直しは一つか二つに絞って出す

    ごろはこうしてみた

    「行かない?」を「行きませんか」に、一箇所だけ直させた。

  4. 送信・公開は、自分の指でやる

    こうした方がいい

    最後の一押しだけは、AIに任せず、自分で押す

    ごろはこうしてみた

    直しを反映させたあと、送信ボタンは自分で押した。

  5. 決めた理由を、日誌に一言残す

    こうした方がいい

    「なぜそう決めたか」を短く書く。次に似た判断をするとき効く

    ごろはこうしてみた

    「友だち向けだから、かしこまりすぎない言い方を選んだ」と一行残した。

うまくいったかの確かめ方

仕上げたあと、自分が実際に動かした手が「決める・任せる・確かめる」の三つに収まっていれば成功です。もし、部下と同じ作業を自分でもやっていたら、社長の仕事から、はみ出しているサインです。送信を自分の指で押したか、理由を一言残したかも、あわせて確かめてください。

卒業制作:フォルダ会社v1(M16)

自分のフォルダ会社を立ち上げる。部署3つ+置き手紙(CLAUDE.md)で最小構成を作り、morning.sh を1回手動実行したうえで、2種類の用事を混ぜた曖昧な依頼を一つ投げてみる。置き手紙の判断木が正しく仕分けてくれたら、あなたはもう「決める・任せる・確かめる」の三役を握る社長です。

確認チェック:

  • できたら○ 置き手紙(判断木4条目以上)が書けた
  • できたら○ 曖昧な混合依頼が2部署に正しく仕分けられた
  • できたら○ morning.sh を手動で1回実行し、文字化けがないことを目で確認した
ごろ商店でごろが四部署の引き出しと、四節の判断木・迷ったとき欄を持つCLAUDE.mdを確認する

あせらず、ゴロゴロ。


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この章のおわりに

半分布団の社長ごろが、ごろ商店の四部署と働く三部下を眺め、社長日誌の一行に軽く満足する

ごろのデスクには、いま、小さな会社があります。やること別の部署、朝を仕切る秘書、名前のついた部下たち。そして、社長のごろ。ごろがやったのは、フォルダに札を貼り、朝の合図を仕込み、係に名前をつけ、三つの仕事に自分を寄せたこと。難しい技は、一つも使っていません。SaaSも、一つも買っていません。

社長といっても、たくさん働くわけではありません。むしろ逆で、手を動かす仕事は、ぜんぶ部下に渡しきる。社長のごろが握るのは、決める・任せる・確かめる、の三つだけ。だから、布団の上からでも、会社は回るのです。ずっと前、ごろには「こんなものがあったらいいのに」というアイデアだけがありました。作り方も、頼み方も、分からなかった。いまは、思いついたことを、部下に任せて、確かめて、世に出せる。一人でも、座組みを持てるようになった。ごろは、自分で決めて動くこと自体が、いちばん面白いと感じ始めています。あせらず、ゴロゴロしながら、それでも会社が回っていく。これが、ごろの新しいゴロゴロです。

ちなみに、外の勉強会では、ごろはこの会社の「社長」として通っているらしい。でも、家に帰れば、社長席の正体は、布団に半分もぐったごろのままです。

あせらず、ゴロゴロ。

昇格の瞬間: 場をひらいて仲間を招いた「まねくゴロニャン」から、フォルダの会社をひらき、部下に名前をつけて、決める・任せる・確かめるを握る「社長ゴロニャン」へ。

答えタップして答え合わせ
ごろ

B。社長が部下と同じ作業をしても、速さでは勝てないし、社長にしかできない仕事が止まってしまいます。

何をやるかを決め、任せ、上がってきたものを確かめる。この三つは、部下(AI)には渡せない、社長だけの仕事です。手は渡す。この三つの判断だけは、渡さない。

ごろあなたの番3分

そのまま使える文例です。コピーして、自分の言葉に少し変えて使ってみてください。

いまの下書き、だいたいいいです。直しは一つだけ。「◯◯」の部分を「△△」に。それ以外はこのままで。送信は私が自分でやるので、送らないでください。

この案内、公開する前に、私が最終確認します。公開ボタンは押さないでください。私が「よし」と言ってから、手順だけ教えてください。

増補もっと知りたい人へ (5)
深掘り

なぜ、社長の仕事を「決める・任せる・確かめる」の三つに絞ると、うまくいくのでしょうか。手を動かす仕事、つまり調べる・書く・整える、といった作業は、もう部下(AI)のほうが速く、たくさんこなせます。ごろも、京都の案内文を自分で一から書き直そうとして、カクゾウの下書きと二重になりかけました。ここで社長が張り合っても、勝てませんし、勝ったところで、社長にしかできない仕事が止まってしまう。だから、手は渡しきる。

手を渡すと、いいこともあります。ごろがシラベルに調べものを頼んでいるあいだに、カクゾウは下書きにとりかかれる。社長ひとりが順番にやっていた小さな仕事が、部下に配ると、同時にすこしずつ進むのです。誇張して「一匹で何匹分」と言うほどではありませんが、細かい用事が並んで動くぶん、一日の終わりに片づいている量は、たしかに増えます。

かわりに社長は、部下には渡せない三つに、自分を寄せます。「何をやるか」を決めるのは、あなたが何を大事にしているかの表れです。「誰に任せるか」は、係の得意を知っているあなたにしか割り振れません。「これで世に出していいか」を確かめるのは、読む相手の事情を知っているあなたにしかできない判断です。ごろが「行かない?」を「行きませんか」に直したのも、あの三人にはこっちが合う、と知っているのがごろだけだったからでした。この三つには、どれも、AIが持っていない「あなたの事情」が要る。だから、渡さない。

とくに大事なのが、三つ目の「確かめる」の締めくくり、送信や公開を自分の指で押すことです。ごろは、直しを反映させたあとも、送信ボタンだけは相棒に押させず、自分の指でちょんと押しました。手を渡しても、世に出すところだけは自分でやる。この本を通して、何度も出てきたやり方です。

そして、確かめて決めたことは、一言でいいので、日誌に残します。なぜそう決めたかという理由は、あなたの頭の中にしかなく、放っておくと、こぼれて消えます。残しておけば、次に似た場面で「前はこう決めた」がすぐ引けます。ごろの日誌も、「友だち向けだから、かしこまりすぎない言い方を選んだ」という、三行の走り書きから始まりました。手を動かす仕事は部下に渡し、この三つだけを自分の手元に置いておく。そうしておくと、ごろが布団にもぐっているあいだも、会社のほうは静かに回っていました。

例をもっと

これを仕上げます。まず私が方向を決めます。【決める】送り先は◯◯、トーンは△△。この方向で、下書きだけ作ってください。書き直しは、私が方向を出してから。

いまの下書き、だいたいいいです。直しは一つだけ。「◯◯」の部分を「△△」に。それ以外はこのままで。送信は私が自分でやるので、送らないでください。

この案内、公開する前に、私が最終確認します。公開ボタンは押さないでください。私が「よし」と言ってから、手順だけ教えてください。

いま決めたことを、社長日誌に一行だけ残してください。「何を・なぜそう決めたか」だけ。日付をつけて、短く。

(医療者向け・ダミーデータ前提)この学習用のまとめは、私が最終確認してから使います。中身の方向(何を重点にするか)は私が決め、整える作業だけ任せます。実際の運用や患者さんに関わる判断は、この段取りには含めません。

ごろつまずき集
  • 症状: つい、部下と同じ作業を自分でも始めてしまう。原因: 手持ちぶさたで、手を動かしたくなる。一手: 「決める・任せる・確かめる」の三つ以外は、いったん手を止める、と決めておく。
  • 症状: 確かめるときに、全部を書き直させてしまう。原因: 直しの範囲を絞っていない。一手: 直しは一つか二つに絞る。気になる箇所を全部直すと、部下が混乱し、方向もぶれる。
  • 症状: 送信・公開まで、うっかりAIに任せそうになる。原因: 最後の一押しの線引きが、あいまい。一手: 「送信・公開・招待は、必ず自分の指で」と、はっきり決めておく。
  • 症状: あとで「なんでこう決めたんだっけ」と思い出せない。原因: 理由を残していない。一手: 確かめたその場で、日誌に一行だけ残す。長く書かなくていい。
余談: 社長ごっこ

子どものころ、画面の中で会社や街を育てるゲームに、夜ふかしするほど夢中になった覚えがあります。自分は指示を出すだけ。道を引く、店を建てる、人を雇う。あとは画面の中の小さな住人たちが、勝手に動いて、街がすこしずつ大きくなっていく。あれがなぜ、あんなに楽しかったのか、当時はうまく言えませんでした。いま思うと、自分の手はほとんど動かしていないのに、決めたことが形になって返ってくる、あの手ざわりが楽しかったのだと思います。これって、もしかして、この章でごろがやっていることと同じなんじゃないか、とふと気づきました。フォルダに部署を立て、部下に名前をつけ、社長席から決めるだけで、机の上の小さな会社が動きだす。あのゲームで感じた「育てる楽しさ」の、実物版みたいなものです。ちがうのは、育つのが画面の中の街ではなく、自分のほんとうの暮らしだ、というところ。ごろが布団の上で満足そうにしているのも、たぶん、あの夜ふかしと地続きの気持ちなのだと思います。

この章の転用サマリ
  • 講座なら: この章まるごとで、実装スクールの1コマ(90分)になります。フォルダで部署を立てる→秘書を常駐させる→部下に名前をつける→社長の三つの仕事、の流れが、そのまま「自分の小さなAI会社を立ち上げる」ハンズオンになります。
  • M3連載なら: 4話それぞれが15分動画1本に対応します。特に22-1(フォルダ会社)と22-4(社長の三つの仕事)は、ビフォーアフターの対比が強く、単独回に向きます。
  • 日経メディカルなら: 「用途別フォルダで小さな部署を作る」(22-1)と「決める・任せる・確かめる、署名は自分」(22-4)の2本が、多忙な臨床でも効くコラムのタネになります(実データは扱わない前提を明記)。
  • 勉強会なら: 各話のワークを通しでやると、参加者がその場で自分の「フォルダ会社」を立ち上げ、社長席に座る90〜120分のハンズオンになります。22章は第4篇の集大成なので、勉強会の締めの回に向きます。
あせらず、ゴロゴロ。
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