7章 二刀流編
7-1

一匹に、全部やらせない

同じお願いに「段取り」と「全部入力」を混ぜないこと。それが、この一話のすべて

この章を読むと、AIに一匹で全部背負わせず、役を分けて頼めるようになります。

「二匹目のAI」と聞くと、覚えることが倍になりそうで、身構えますよね。でも本当に増えるのは、道具ではなく「役を分ける」という考え方ひとつだけです。

第1篇のごろは、なんでも一匹目に頼んでいました。段取りを立てるのも、実際の作業も、仕上げも、ぜんぶ同じ一匹。それでもちゃんと動いていたので、不満はありません。

ところが、ある日つまずきます。ごろは、たまった家計のメモを月ごとの表にしたくなりました。そこで一匹目に、こう頼みます。「表にまとめる段取りを立てて。それと、その何十行も入力もして」。頭を使う仕事と、手を動かす仕事を、一度に押しつけたのです。

すると、一匹目の様子がおかしい。段取りを考えていたはずが、途中から入力作業に沈み込んで、肝心の分類がだんだんブレていきました。ごろは布団の上で足をぷらぷらさせながら、ようやく気づきます。考えごとをしている人に、同時に皿洗いをさせてはいけない。どっちもうすくなる。

左のごろが図面を考え、一本の矢印の先で右のごろが同じ図面からネジを締める

こんがらがらないかな、とごろは一瞬首をかしげます。でも左の席から右のごろを指さして、ふっと首を振ります。私は決めるだけ。締めるのはあっちの私。役が違うから、こんがらがらない。

考える役は「ゆっくり、じっくり」が向いています。手の役は「速く、たくさん」が向いています。求めるものが逆なので、混ぜると両方にブレーキがかかる。だから分ける。二匹目を用意しなくても、一匹の相棒に「いまは考える役」「いまは作業する役」と場面を分けて頼むだけで、もう効果は出はじめます。ちなみに、この「もう一匹」にあたる働き手には本名があって、二匹目〔Codex(コデックス)〕と呼ばれます。名前はいま覚えなくて大丈夫。まずは「役を分ける」だけ持って帰ってください。

開きのクイズ

あなたは料理屋の主人です。次のうち、店がうまく回るのはどっち?

  • A: 一人の職人が、献立を考えて、仕込みもして、盛り付けもして、皿洗いもする
  • B: 主人が献立と味を決めて、若い衆が仕込みと皿洗いを黙々と片づける
実演

ごろが、一匹目にこう頼みます。「この家計メモを、月ごとの表にまとめる段取りだけ立てて。実際の入力は、あとで別の子にやらせるから」。

一匹目は、表の形と、列の見出しと、どう分類するかだけを返してきました。ここまでが考える役の仕事です。何十行も打ち込んでいく単純作業は、このあと手の役へ回します。役をひとつ、口で割っただけ。ごろの机の上が、少しだけ静かになりました。

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ごろはじめの一歩
  • どこで: いま使っている一匹目のなかで、まず「考える」と「やる」を口で分けてみる
  • どうやって: 頼むとき「まず段取りだけ立てて。作業は後で」と一言そえる。役を画面ごと分けたくなったら、いつものアプリで「新しい会話」(画面の左上や「+」の印)をもう一つ開き、片方を考える窓、もう片方を作業する窓にする
  • きっかけ: 次に少し面倒なことを頼むとき、いきなり「やって」と言わず「段取りだけ」から始める
ごろはじめの一歩

あせらず、ゴロゴロ。まずは頭のなかで役を二つに割る。二匹目は、そのあとでいい。

実録・やってみた

ごろの手元には、四月のあいだにためた家計のメモが一枚だけあります。日付と、店の名前と、金額が、ただ縦に並んでいるだけ。これを月ごとの表にしたいのだけれど、どこから手をつけていいか分かりません。まず、その実物を開いてみます。

$ ls kakei_71/
家計メモ.txt

$ cat kakei_71/家計メモ.txt
4/2 スーパー まいばすけっと 2380
4/3 電気代 5210
4/5 ドラッグストア 1180
(…このあと 4/29 スーパー 3410 まで、全部で10行…)

ごろは、はじめこう頼みました。

ごろ
ごろが打った文この家計メモを月ごとの表にまとめて。段取りも立てて、そのまま全部入力もして。
相棒
相棒の返答承知しました。まず列は「日付・店・金額」とし……いえ、月ごとなら「分類・合計」でしょうか。分類は食費、光熱費……(このあたりで入力に入ります)4/2 スーパー2380は食費、4/5ドラッグ1180は……日用品? 食費? (…と、途中から分類の判断がゆらぎ始めます…)

画面で見えること段取りの説明と、入力の途中と、分類の迷いが、一つの返事のなかで混ざっている。

考える途中で入力を始めさせたので、分類がぶれました。ネタ帳の家計メモのつまずきそのものです。ごろは頼み方を切り分けます。

ごろ
ごろが打った文いったん止めて。まず段取りだけ立てて。列の見出しと、分類のルールを決めるところまで。入力はしないで。
相棒
相棒の返答段取りだけお出しします。列は「月・分類・合計(円)」。分類は〈食費(スーパー・ドラッグストア・カフェ)〉〈光熱費(電気・水道)〉〈通信費〉〈その他〉の4つ。この枠で入力を進めてよければ、次に集計します。

画面で見えること表の骨組みと分類ルールだけが、すっきり出ている。

方向が固まったので、入力(手の役)へ回します。仕上がった表がこれです。

$ cat kakei_71/家計_4月_月別集計.csv
月,分類,合計(円)
4月,食費,13390
4月,光熱費,8330
4月,通信費,4980
4月,その他,1650

役を口で割っただけで、迷いが消えました。同じお願いに「段取り」と「全部入力」を混ぜないこと。それが、この一話のすべてです。この日はこう返ってきました。分類の線引き(本を「その他」にするか等)は、頼むたびに少し変わります。

手順
  1. まず、そろえたい実物を一つ開いて眺める

    こうした方がいい

    いきなり頼まず、何行くらいで、何がバラバラかを自分の目で見ておく

    ごろはこうしてみた

    家計メモを開いたら10行で、日付・店・金額が縦に並ぶだけだと分かった。

  2. 「段取りだけ」と口に出して頼む

    こうした方がいい

    一つのお願いに「入力もして」を足さない。足すと考える手が止まる

    ごろはこうしてみた

    一度目は混ぜて分類がぶれたので、「入力はしないで」と念を押して頼み直した。

  3. ゴールの細かさを一言そえる

    こうした方がいい

    「段取り」だけだと粗くなる。「列の見出しと分類ルールまで」と着地点を指定する

    ごろはこうしてみた

    「月・分類・合計」の3列と、4分類のルールまで返ってきた。

  4. 方向が固まってから、入力(手の役)へ回す

    こうした方がいい

    考える役と手の役のあいだに、はっきり切れ目を入れる

    ごろはこうしてみた

    骨組みが決まってから入力を頼み、4行の表ができた。

  5. できた表を、元メモと突き合わせて確かめる

    こうした方がいい

    合計が元の金額と合うかを一度だけ検算する

    ごろはこうしてみた

    食費や光熱費の合計を足し直して、元メモと一致するのを確認した。

うまくいったかの確かめ方

段取りを頼んだ返事に、入力作業の途中が混じっていなければ成功です。表ができたら、分類ごとの合計を元のメモと突き合わせて、数字が合っていれば安心できます。

答えタップして答え合わせ
ごろ

B。Aの職人がどれだけ腕利きでも、皿を洗っている間は献立を考えられません。

頭を使う仕事と手を動かす仕事は、同時にやると両方うすくなる。だから分ける。AIも、まったく同じです。

増補もっと知りたい人へ (4)
深掘り

なぜ「考える」と「手を動かす」を混ぜると、たいてい両方うすくなるのでしょうか。考える仕事は、あちこちに気を配りながら、全体を見わたして方向を決める仕事です。じっくり時間をかけたほうが、良いものになります。いっぽう手を動かす仕事は、決まった手順をひたすら繰り返す仕事です。速く、たくさんこなせたほうが助かります。求めている「うれしさ」が、まるで逆を向いているのです。だから同じ相棒に一度に押しつけると、片方に引っぱられて、もう片方がおろそかになりがちです。ごろが家計メモでつまずいたのは、まさにこれでした。ここで大事なのは、二匹目という道具を増やすことよりも、「いまは考える役」「いまは作業する役」と、頼む場面を分けるという考え方のほうです。じつは一匹の相棒のなかでも、この分け方は効きます。まず段取りを立ててもらい、方向が固まってから作業に移す。それだけで、出来上がりが落ち着くことがあります。二匹目は、この分け方に慣れてきて「作業のほうを、まるごと別の子に回したい」と思ったときの、次の一歩です。順番としては、頭のなかで役を割るのが先。相棒を増やすのは、あとからでかまいません。

例をもっと

この家計メモを、月ごとの表にまとめる段取りだけ立ててください。列の見出しと、分類のしかたを決めてくれれば十分です。入力は、あとで別に頼みます。

週末の引っ越しの準備を手伝ってほしいです。まず「何を、いつまでに、どの順でやるか」の段取りだけ立ててください。荷造りそのものの細かい作業リストは、あとで作ります。

この読書メモを本棚の一覧表にしたいです。まず表の形(どんな列にするか)だけ相談させてください。実際の入力作業は、そのあとで。

趣味のプラモデルの在庫を整理したいです。まず「どう分類すると探しやすいか」の方針だけ決めてください。一個ずつの登録は、方針が決まってから。

(医療者向け・ダミーデータ前提)手元の学習用ダミー症例メモを、テーマ別に整理したいです。まず分類の枠組みだけ提案してください。個票の入力はあとで回します。患者さんの実データは使いません。

ごろつまずき集
  • 症状: 段取りを頼んだのに、途中から相棒が黙々と入力を始めてしまう。原因: 同じお願いのなかに「入力もして」を混ぜている。一手: お願いをいったん切って「まず段取りだけ。作業はしないで」と念を押す。
  • 症状: 段取りは出たが、ざっくりしすぎて次に進めない。原因: 「段取りを立てて」だけだと、どこまで細かくするかが伝わっていない。一手: 「列の見出しまで決めて」など、ゴールの細かさを一言そえる。
  • 症状: 分けたはずが、かえって手間が増えた気がする。原因: もともと数行で終わる小さな作業まで律儀に分けている。一手: 分けるのは「考える部分がある仕事」だけ。単純作業だけの用事は、分けなくて大丈夫です。
  • 症状: 段取りの途中で相棒の答えがブレていく。原因: 一度に頼んだ量が多く、考える負荷が上がっている。一手: 段取りをさらに小さく区切って、一段ずつ相談する。
余談: 二本の刀

役を分ける、と書いていて、二刀流という言葉が頭に浮かびました。宮本武蔵の二刀流は、二本の刀を同時にぶんぶん振り回すためのものではなくて、場面に応じて使い分けるための二刀だ、と言われます。太い刀と細い刀、それぞれに向く間合いがあって、来た相手に合わせて持ち替える。二本あることより、二本を使い分けられることのほうが強い。そう聞いて、妙にしっくりきました。

考える刀と、手を動かす刀。ごろが持っているのも、たぶん二本の刀です。両方を一度に振り回すと、どちらの切れ味も鈍る。だから、段取りを立てるときは考える刀、入力を進めるときは手の刀、と持ち替える。二匹目を迎えるのは、片方の刀を、まるごと別の手に預けたくなったとき。急がなくて大丈夫です。まずは一本の中で、持ち替えを覚えるところから。


あせらず、ゴロゴロ。
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