一匹に、全部やらせない
同じお願いに「段取り」と「全部入力」を混ぜないこと。それが、この一話のすべて
この章を読むと、AIに一匹で全部背負わせず、役を分けて頼めるようになります。
「二匹目のAI」と聞くと、覚えることが倍になりそうで、身構えますよね。でも本当に増えるのは、道具ではなく「役を分ける」という考え方ひとつだけです。
第1篇のごろは、なんでも一匹目に頼んでいました。段取りを立てるのも、実際の作業も、仕上げも、ぜんぶ同じ一匹。それでもちゃんと動いていたので、不満はありません。
ところが、ある日つまずきます。ごろは、たまった家計のメモを月ごとの表にしたくなりました。そこで一匹目に、こう頼みます。「表にまとめる段取りを立てて。それと、その何十行も入力もして」。頭を使う仕事と、手を動かす仕事を、一度に押しつけたのです。
すると、一匹目の様子がおかしい。段取りを考えていたはずが、途中から入力作業に沈み込んで、肝心の分類がだんだんブレていきました。ごろは布団の上で足をぷらぷらさせながら、ようやく気づきます。考えごとをしている人に、同時に皿洗いをさせてはいけない。どっちもうすくなる。

こんがらがらないかな、とごろは一瞬首をかしげます。でも左の席から右のごろを指さして、ふっと首を振ります。私は決めるだけ。締めるのはあっちの私。役が違うから、こんがらがらない。
考える役は「ゆっくり、じっくり」が向いています。手の役は「速く、たくさん」が向いています。求めるものが逆なので、混ぜると両方にブレーキがかかる。だから分ける。二匹目を用意しなくても、一匹の相棒に「いまは考える役」「いまは作業する役」と場面を分けて頼むだけで、もう効果は出はじめます。ちなみに、この「もう一匹」にあたる働き手には本名があって、二匹目〔Codex(コデックス)〕と呼ばれます。名前はいま覚えなくて大丈夫。まずは「役を分ける」だけ持って帰ってください。
あなたは料理屋の主人です。次のうち、店がうまく回るのはどっち?
- A: 一人の職人が、献立を考えて、仕込みもして、盛り付けもして、皿洗いもする
- B: 主人が献立と味を決めて、若い衆が仕込みと皿洗いを黙々と片づける
ごろが、一匹目にこう頼みます。「この家計メモを、月ごとの表にまとめる段取りだけ立てて。実際の入力は、あとで別の子にやらせるから」。
一匹目は、表の形と、列の見出しと、どう分類するかだけを返してきました。ここまでが考える役の仕事です。何十行も打ち込んでいく単純作業は、このあと手の役へ回します。役をひとつ、口で割っただけ。ごろの机の上が、少しだけ静かになりました。
はじめの一歩- どこで: いま使っている一匹目のなかで、まず「考える」と「やる」を口で分けてみる
- どうやって: 頼むとき「まず段取りだけ立てて。作業は後で」と一言そえる。役を画面ごと分けたくなったら、いつものアプリで「新しい会話」(画面の左上や「+」の印)をもう一つ開き、片方を考える窓、もう片方を作業する窓にする
- きっかけ: 次に少し面倒なことを頼むとき、いきなり「やって」と言わず「段取りだけ」から始める
はじめの一歩あせらず、ゴロゴロ。まずは頭のなかで役を二つに割る。二匹目は、そのあとでいい。
ごろの手元には、四月のあいだにためた家計のメモが一枚だけあります。日付と、店の名前と、金額が、ただ縦に並んでいるだけ。これを月ごとの表にしたいのだけれど、どこから手をつけていいか分かりません。まず、その実物を開いてみます。
$ ls kakei_71/
家計メモ.txt
$ cat kakei_71/家計メモ.txt
4/2 スーパー まいばすけっと 2380
4/3 電気代 5210
4/5 ドラッグストア 1180
(…このあと 4/29 スーパー 3410 まで、全部で10行…)ごろは、はじめこう頼みました。
ごろが打った文この家計メモを月ごとの表にまとめて。段取りも立てて、そのまま全部入力もして。
相棒の返答承知しました。まず列は「日付・店・金額」とし……いえ、月ごとなら「分類・合計」でしょうか。分類は食費、光熱費……(このあたりで入力に入ります)4/2 スーパー2380は食費、4/5ドラッグ1180は……日用品? 食費? (…と、途中から分類の判断がゆらぎ始めます…)
画面で見えること段取りの説明と、入力の途中と、分類の迷いが、一つの返事のなかで混ざっている。
考える途中で入力を始めさせたので、分類がぶれました。ネタ帳の家計メモのつまずきそのものです。ごろは頼み方を切り分けます。
ごろが打った文いったん止めて。まず段取りだけ立てて。列の見出しと、分類のルールを決めるところまで。入力はしないで。
相棒の返答段取りだけお出しします。列は「月・分類・合計(円)」。分類は〈食費(スーパー・ドラッグストア・カフェ)〉〈光熱費(電気・水道)〉〈通信費〉〈その他〉の4つ。この枠で入力を進めてよければ、次に集計します。
画面で見えること表の骨組みと分類ルールだけが、すっきり出ている。
方向が固まったので、入力(手の役)へ回します。仕上がった表がこれです。
$ cat kakei_71/家計_4月_月別集計.csv
月,分類,合計(円)
4月,食費,13390
4月,光熱費,8330
4月,通信費,4980
4月,その他,1650役を口で割っただけで、迷いが消えました。同じお願いに「段取り」と「全部入力」を混ぜないこと。それが、この一話のすべてです。この日はこう返ってきました。分類の線引き(本を「その他」にするか等)は、頼むたびに少し変わります。
まず、そろえたい実物を一つ開いて眺める
こうした方がいいいきなり頼まず、何行くらいで、何がバラバラかを自分の目で見ておく
ごろはこうしてみた家計メモを開いたら10行で、日付・店・金額が縦に並ぶだけだと分かった。
「段取りだけ」と口に出して頼む
こうした方がいい一つのお願いに「入力もして」を足さない。足すと考える手が止まる
ごろはこうしてみた一度目は混ぜて分類がぶれたので、「入力はしないで」と念を押して頼み直した。
ゴールの細かさを一言そえる
こうした方がいい「段取り」だけだと粗くなる。「列の見出しと分類ルールまで」と着地点を指定する
ごろはこうしてみた「月・分類・合計」の3列と、4分類のルールまで返ってきた。
方向が固まってから、入力(手の役)へ回す
こうした方がいい考える役と手の役のあいだに、はっきり切れ目を入れる
ごろはこうしてみた骨組みが決まってから入力を頼み、4行の表ができた。
できた表を、元メモと突き合わせて確かめる
こうした方がいい合計が元の金額と合うかを一度だけ検算する
ごろはこうしてみた食費や光熱費の合計を足し直して、元メモと一致するのを確認した。
段取りを頼んだ返事に、入力作業の途中が混じっていなければ成功です。表ができたら、分類ごとの合計を元のメモと突き合わせて、数字が合っていれば安心できます。
答えタップして答え合わせ

B。Aの職人がどれだけ腕利きでも、皿を洗っている間は献立を考えられません。
頭を使う仕事と手を動かす仕事は、同時にやると両方うすくなる。だから分ける。AIも、まったく同じです。
増補もっと知りたい人へ (4)
なぜ「考える」と「手を動かす」を混ぜると、たいてい両方うすくなるのでしょうか。考える仕事は、あちこちに気を配りながら、全体を見わたして方向を決める仕事です。じっくり時間をかけたほうが、良いものになります。いっぽう手を動かす仕事は、決まった手順をひたすら繰り返す仕事です。速く、たくさんこなせたほうが助かります。求めている「うれしさ」が、まるで逆を向いているのです。だから同じ相棒に一度に押しつけると、片方に引っぱられて、もう片方がおろそかになりがちです。ごろが家計メモでつまずいたのは、まさにこれでした。ここで大事なのは、二匹目という道具を増やすことよりも、「いまは考える役」「いまは作業する役」と、頼む場面を分けるという考え方のほうです。じつは一匹の相棒のなかでも、この分け方は効きます。まず段取りを立ててもらい、方向が固まってから作業に移す。それだけで、出来上がりが落ち着くことがあります。二匹目は、この分け方に慣れてきて「作業のほうを、まるごと別の子に回したい」と思ったときの、次の一歩です。順番としては、頭のなかで役を割るのが先。相棒を増やすのは、あとからでかまいません。
この家計メモを、月ごとの表にまとめる段取りだけ立ててください。列の見出しと、分類のしかたを決めてくれれば十分です。入力は、あとで別に頼みます。
週末の引っ越しの準備を手伝ってほしいです。まず「何を、いつまでに、どの順でやるか」の段取りだけ立ててください。荷造りそのものの細かい作業リストは、あとで作ります。
この読書メモを本棚の一覧表にしたいです。まず表の形(どんな列にするか)だけ相談させてください。実際の入力作業は、そのあとで。
趣味のプラモデルの在庫を整理したいです。まず「どう分類すると探しやすいか」の方針だけ決めてください。一個ずつの登録は、方針が決まってから。
(医療者向け・ダミーデータ前提)手元の学習用ダミー症例メモを、テーマ別に整理したいです。まず分類の枠組みだけ提案してください。個票の入力はあとで回します。患者さんの実データは使いません。
つまずき集- 症状: 段取りを頼んだのに、途中から相棒が黙々と入力を始めてしまう。原因: 同じお願いのなかに「入力もして」を混ぜている。一手: お願いをいったん切って「まず段取りだけ。作業はしないで」と念を押す。
- 症状: 段取りは出たが、ざっくりしすぎて次に進めない。原因: 「段取りを立てて」だけだと、どこまで細かくするかが伝わっていない。一手: 「列の見出しまで決めて」など、ゴールの細かさを一言そえる。
- 症状: 分けたはずが、かえって手間が増えた気がする。原因: もともと数行で終わる小さな作業まで律儀に分けている。一手: 分けるのは「考える部分がある仕事」だけ。単純作業だけの用事は、分けなくて大丈夫です。
- 症状: 段取りの途中で相棒の答えがブレていく。原因: 一度に頼んだ量が多く、考える負荷が上がっている。一手: 段取りをさらに小さく区切って、一段ずつ相談する。
役を分ける、と書いていて、二刀流という言葉が頭に浮かびました。宮本武蔵の二刀流は、二本の刀を同時にぶんぶん振り回すためのものではなくて、場面に応じて使い分けるための二刀だ、と言われます。太い刀と細い刀、それぞれに向く間合いがあって、来た相手に合わせて持ち替える。二本あることより、二本を使い分けられることのほうが強い。そう聞いて、妙にしっくりきました。
考える刀と、手を動かす刀。ごろが持っているのも、たぶん二本の刀です。両方を一度に振り回すと、どちらの切れ味も鈍る。だから、段取りを立てるときは考える刀、入力を進めるときは手の刀、と持ち替える。二匹目を迎えるのは、片方の刀を、まるごと別の手に預けたくなったとき。急がなくて大丈夫です。まずは一本の中で、持ち替えを覚えるところから。
