20章 ひのき舞台編
20-2

スライドは、しゃべる順に。飾りより、順番

一枚に伝えることは一つだけ。

発表が終わったあと、聞き手の感想で多いのは、次のどっちだと思いますか。

  • A. 「スライドがきれいだった」
  • B. 「何が言いたかったのか、よく分からなかった」

答えは、この話のいちばん下にあります。

この話を読むと

スライドを飾りから作るのをやめて、「一枚一メッセージ」で、しゃべる順にそのまま並べられるようになります。

前の話で、話の骨組みはできました。次に多くの人がやってしまうのが、いきなりきれいなスライドを作ろうとして、色やフォントやレイアウトで丸一日溶かすことです。飾りに凝るほど、聞き手が迷子になっていく。これは、ふしぎな話ですが、本当のことです。ごろも、はじめての登壇で、装飾のテンプレートを二時間いじって、中身が一文字も進まない、ということをやりました。

飾りと情報が詰まった左スライドからごろが飾りをはがし、一行とごろ図だけの右スライドにうなずく

大事なのは、二つだけです。ひとつ、一枚に伝えることは一つだけ。二つ以上を一枚に詰めると、聞き手はどちらを聞けばいいか分からなくなります。話し手も、その一枚で何を言うか迷います。ふたつ、スライドは、しゃべる順にそのまま並べる。前の話で作った骨組みの順番を、そのまま一枚ずつのスライドにするのです。骨組みが目次で、スライドはその一項目ずつ、という関係です。

このとき、スライドを、いつものチャットと相性のいい形で作っておくと、あとの直しが楽です。この本の著者は、専用のスライドアプリを増やすかわりに、文字で書けるスライド(HTMLや、Marpと呼ばれる形)で組んでいます。見た目のかたまりでなく、文字の並びとして持っておくと、一枚を動かしたい、言葉を変えたい、というとき、その場で相棒に頼めるからです。詳しい作り方は、少し込み入るので、オンライン追補のQRに置いてあります。ここでは、「一枚一メッセージで、話す順に」という骨だけ、覚えて帰ってください。

色やフォントの飾りつけは、いちばん最後です。順番と中身が固まる前に飾ると、一枚動かすたびに飾りがずれて、全部やり直しになります。飾りは、前日でも間に合います。

実演

ごろは、こう頼みました。

「前に作った話の骨組みを、スライドの並びにしてください。一枚に伝えることは一つだけ。しゃべる順にそのまま並べて。各枚に、見出しと、その一枚で私が口で言う一言。色や飾りは、まだいりません。」

見出しだけのスライドが、話す順にずらりと並びました。ごろは満足して、色を選びにいこうとします。ところが、四枚目のスライドに、「便利な例」と「注意すること」の二つが同居しているのを見つけました。「ここ、二つ入ってる」。ごろは、その一枚を二枚に割り直してから、先へ進みます。

一枚に一つ、しゃべる順に。それだけで、飾りがなくても、もう分かりやすい。ごろは、飾りに逃げたくなる気持ちを、ぐっとこらえました。

ごろはじめの一歩
  • どこで: まずはチャット画面で、スライドの並びを言葉で作ります。見た目に落とす道具は、あとから。
  • どうやって: 前の話の骨組みを渡して、「一枚一メッセージで、話す順に並べて」と頼む。飾りはまだ頼まない。
  • きっかけ: 骨組みができた直後に、ひと続きで。作る、並べる、を一回の流れにすると、助走が要りません。
ごろはじめの一歩

手順(全3ステップ):

  1. 話したいテーマのメモを箇条書きで5ブロック手書きする(完全ダミーでよい)。
  2. claude -p "このメモから5枚のHTMLスライド(1ファイル・縦5枚・シンプルで大きい文字)を作って" と発表メモを渡す。生成ファイルをブラウザで開き、一枚に一メッセージになっているか確認する。
  3. 1枚だけ「図解っぽく」と指定して直し依頼を1往復する。

所要目安:15分〜30分

到達チェック:

>
  • できたら○ メモからスライドHTMLが1コマンドで生成できた(実測41秒を参照)
  • できたら○ 1往復の直し依頼で、指定した枚の表現が変わった

先生の赤ペン:文字で書くスライド(M14)

【見るポイント 1】claude -p はstdoutではなくファイルに書く。slides.html を作成しました。保存先: M14_文字で書くスライド/slides.html という行が出たとき、stdoutには説明文だけが入っている。> slides.html でリダイレクトしても中身は届かない。

【見るポイント 2】直し依頼には「現在のHTML」を埋め込む必要がある。claude -p はステートレスで前の会話を覚えていない。今回は現在の3枚目HTMLブロックをプロンプトに貼り込んで渡した。「直して」だけでは何を直すか分からない。

【見るポイント 3】「箇条書き→図解」の変換は1往復で完了する。「3枚目を図解っぽく」という曖昧な1文から、左右比較カード+矢印+色分けまで自動生成された(実測33秒)。ただしCSSクラス名が既存と衝突するプロジェクトでは上書きが起きる。新規ファイルなら問題ない。


あせらず、ゴロゴロ。

実録・やってみた

前の話で、話の骨組みは六つの流れにまとまっていました。ごろの手元には、それがそのまま残っています。まだ、スライドの形にはなっていません。

話の骨組み(前の話の続き)
1 つかみ  私も最初はこわかった
2 問い    AIって、こわい?
3 答え    実は、話しかけるだけ
4 例      いちばん身近な例をひとつ
5 一歩    きょう帰ったら、これを一回
6 まとめ  こわがらず、一回さわってみて
ごろ
ごろが打った文「この話の骨組みを、スライドの並びにしてください。一枚に伝えることは一つだけ。しゃべる順にそのまま並べて。各枚に、見出しと、その一枚で私が口で言う一言。色や飾りは、まだいりません。」
相棒
相棒の返答「話す順のまま、スライドに割りました。見出しと、口で言う一言だけです。

1 見出し『私も、こわかった』|一言『最初は黒い画面を想像してました』 2 見出し『AIって、こわい?』|一言『みなさんも、そう思っていませんか』 3 見出し『実は、話しかけるだけ』|一言『打つ、待つ、返る。それだけです』 4 見出し『たとえば、晩ごはん』|一言『冷蔵庫の中身を打つと、献立が返ってきます』/『使いすぎには気をつけて、も一言』 5 見出し『きょう帰ったら』|一言『ひとつだけ、話しかけてみてください』 6 見出し『こわがらず、一回』|一言『それが、はじめの一歩です』 」

画面で見えること六枚が話す順に並びました。ただ、四枚目の一言が「/」で二つに割れています。

ごろは満足して、さっそく色を選びにいこうとします。でも、四枚目で引っかかりました。ここには「晩ごはんの例」と「使いすぎ注意」の、二つが入っています。

ごろ
ごろが打った文「4枚目、話が二つ入っています。『晩ごはんの例』と『使いすぎ注意』を、別々の二枚に割ってください。全体は7枚になっていいです。」
相棒
相棒の返答「はい、四枚目を二枚に割りました。

4 見出し『たとえば、晩ごはん』|一言『冷蔵庫の中身を打つと、献立が返ってきます』 5 見出し『ひとつだけ、注意』|一言『便利だから、使いすぎには気をつけて』 (以降は一枚ずつ後ろへ。全7枚)」

画面で見えること四枚目が二枚になり、全体が七枚に伸びました。色もフォントも、まだどこにもありません。

仕上がったスライドの並びは、こうです。

1 私も、こわかった
2 AIって、こわい?
3 実は、話しかけるだけ
4 たとえば、晩ごはん
5 ひとつだけ、注意
6 きょう帰ったら
7 こわがらず、一回
※各枚に口で言う一言つき。色・飾りはまだ無し

一枚に伝えることは一つだけ。 ごろは、二つ入った四枚目を、二枚に割り直しました。

この日はこう返ってきました。見出しの言葉や、割り方の刻みは、頼むたびに毎回すこし違います。

手順
  1. 前の話の骨組みを、そのまま渡す

    こうした方がいい

    作った直後、ひと続きでやると助走が要らない

    ごろはこうしてみた

    骨組みを作ったその画面で、続けてスライドの並びを頼んだ。

  2. 「一枚一メッセージ・話す順」を先に指定する

    こうした方がいい

    この二つを言わないと、詰め込みや並べ替えが起きる

    ごろはこうしてみた

    「一枚に一つ、しゃべる順に」と先に区切った。

  3. 各枚に「口で言う一言」を添えてもらう

    こうした方がいい

    当日しゃべる言葉まで一緒に出すと、本番の自分が助かる

    ごろはこうしてみた

    見出しの下に一言をつけてもらった。

  4. 二つ入っている枚を探して、割る

    こうした方がいい

    一枚を二枚にするのは、飾る前なら軽い

    ごろはこうしてみた

    四枚目の「例」と「注意」を二枚に割った。

  5. 飾りは、順番と中身が固まってから

    こうした方がいい

    色・フォントは最後。先に飾ると動かすたびにずれる

    ごろはこうしてみた

    割り終わるまで、色は一切選ばなかった。

  6. 見た目に落とす道具は、あとから選ぶ

    こうした方がいい

    スライドの道具や作り方は追補のQRへ。まず言葉で固める

    ごろはこうしてみた

    並びが固まってから、見た目の清書に移った。

うまくいったかの確かめ方

スライドが、話す順にそのまま並んでいて、そのどの一枚も「伝えることが一つ」になっていれば成功です。二つ入った枚を一枚でも見つけて割れていれば、詰め込みを見抜く目が働いています。

答えタップして答え合わせ
ごろ

B。 きれいさとは別のところで、スライドは分かりにくくなります。

一枚に二つ以上を詰めたとき、もしくは話す順番とスライドの順番がズレているとき。きれいなスライドでも、一枚に三つ詰まっていれば、聞き手は迷います。逆に、飾りがなくても、一枚一つで順番どおりなら、すっと伝わります。飾りはあとから足せます。でも、順番と「一枚一つ」だけは、最初から決めておかないと、きれいに飾っても伝わりません。

増補もっと知りたい人へ (3)
深掘り

「一枚一メッセージ」は、見栄えのルールではなく、聞き手の頭の仕組みに合わせたルールです。人は、一枚のスライドを見た瞬間、そこに何が書いてあるかを一度に読み取ろうとします。一つなら、すっと入る。二つ以上あると、どちらを先に読むか、話し手の声とどちらを合わせるか、で一瞬まよいます。この一瞬の迷いが積み重なると、聞き手はだんだん置いていかれます。飾りが多いスライドが分かりにくいのも、同じ理由です。矢印や枠や色は、それ自体が「情報」として読み取られるので、一枚あたりの読み取る量が増える。飾りは、伝えるためでなく、伝わりにくくするために働いてしまうことがあるのです。

「話す順に並べる」のも、地味ですが効きます。骨組みの順番と、スライドの順番と、話す言葉の順番。この三つがずれていると、話し手は「次、何のスライドだっけ」と手元を探し、聞き手は「今どこの話?」と迷います。三つを同じ順に揃えておくと、話しながらスライドをめくるだけで、自然に話が進みます。だから、スライドを骨組みから、しゃべる順にそのまま起こすのが、いちばん楽なのです。そして、この並びを、相棒とすぐ直せる形で持っておくと、リハーサルで「ここの順番、入れ替えたい」となったとき、その場で頼めます。専用のアプリを一つ増やすより、いつもの相棒と地続きにしておくほうが、めんどくさがりには続きます。

例をもっと

この話の骨組みを、スライドの並びにしてください。一枚に一つだけ、しゃべる順に。各枚に、口で言う一言も。全部で10枚くらい、色や飾りはまだいりません。

発表の途中で、実際にやってみせる場面を入れたいです。「ここで実演」というスライドを一枚はさんで、その前後を、実演が引き立つように並べてください。飾りはまだ不要です。

スライドが今15枚あって、15分に収まりません。一枚一メッセージを守りながら、削れる枚を提案してください。芯の「伝えたい一つ」から遠いものから。

この並びを、聞き手を飽きさせないように見直してください。固い話が続いていたら、あいだに軽い一枚を入れる提案を。順番だけで、色はまだいりません。

(医療者向け・ダミーデータ前提)この骨組みを、スライドの並びに。一枚一メッセージで、しゃべる順に。数値や症例はすべて仮のダミーで、私が正しい内容に差し替えます。

ごろつまずき集
  • 症状: 一枚に、話が二つ以上詰まっている。原因: 「一枚一メッセージ」を指定していない。一手: 「一枚に伝えることは一つ」と先に区切ります。ごろが四枚目を割り直したのが、これです。
  • 症状: 飾りに凝って、丸一日が溶けた。原因: 順番より先に見た目から入った。一手: 色もフォントも、順番と中身が固まるまで触りません。飾りは前日で間に合います。
  • 症状: 話しながら「次どのスライド」と迷う。原因: スライドの順と話す順がずれている。一手: しゃべる順に、そのまま並べ直します。三つの順を揃えると、めくるだけで進みます。
  • 症状: スライドの道具の操作で手が止まる。原因: いきなり見た目の道具から始めている。一手: まず言葉で並びを固めます。道具の細かいやり方は、追補のQRに逃がしてあります。
あせらず、ゴロゴロ。
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