20章 ひのき舞台編
20-3

想定問答とリハーサル。本番の前に、こわい質問を先に浴びる

こわい質問は、本番でなく家で出会う。

発表の本番で、いちばん心臓に悪いのは、次のどっちでしょう。

  • A. 予想していた質問が来ること
  • B. まったく考えていなかった質問が来ること

答えは、この話のいちばん下にあります。

この話を読むと

本番でどんな質問が来るかを、相棒に聴衆役をやらせて先に浴びておき、答えの用意と、時間の見積もりまで、家で済ませられるようになります。

本番がこわいのは、話す内容そのものより、「予想外」がこわいのです。想定していなかった質問。思ったより早く終わってしまう時間。言おうと思っていたのに、飛ばしてしまった大事な一言。これらは全部、本番で初めて出会うから、こわい。だったら、家で先に出会っておけばいい。ごろも、はじめての登壇の前夜、この「先に浴びる」で、ずいぶん救われました。

ごろが鏡へ話す練習をし、鏡のごろが聴衆として手を挙げ、半分落ちた砂時計で時間を測る

やることは、三つです。ひとつ、相棒に聴衆の役をやらせて、質問を出させます。「AIをまだ触っていない十人の聴衆になったつもりで、この発表に質問を五つ」と頼むと、自分では思いつかない角度の質問が返ってきます。ふたつ、その質問に、一度自分で答えてみます。うまく答えられなかった質問だけ、答えの下書きを相棒と用意しておきます。みっつ、通しで一度、時間を測ります。声に出して読んで、何分かかるか。長ければ削り、短ければ足す場所を決めます。

この三つを、本番の前にやっておくだけで、当日の「予想外」がぐっと減ります。予想外がゼロにはなりません。でも、ゼロにする必要もありません。八割を家で潰しておけば、残りの二割は、その場で「いい質問ですね、少し考えさせてください」と言えばいい。全部に完璧に答える必要は、ないのです。

そして、リハーサルの主役は、あなたです。相棒は質問を出し、時間の見積もりを手伝いますが、実際に声に出して読むのは、あなた自身です。口が回らない場所、言いにくい言葉は、読んでみて初めて分かります。ここは、相棒に代わってもらえません。

実演

ごろは、こう頼みました。

「私の発表のスライドを下に貼ります。AIをまだ触っていない十人の聴衆になったつもりで、この発表に出そうな質問を5つ挙げてください。意地悪でなく、初心者が素朴に思う質問で。」

質問が、五つ返ってきました。ごろは、四つまではすらすら答えられました。ところが五つ目、「お金はかかるんですか?」で、言葉に詰まります。そういえば、料金の話は、スライドに入れていなかった。ごろは、この一問だけ、答えの下書きを相棒と用意しました。「最初は、お金をかけずに試せます」の一言を、手元のメモに足しておきます。

こわい質問は、本番でなく家で出会う。ごろは、当日の心臓が、少し軽くなったのを感じました。

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ごろはじめの一歩
  • どこで: チャット画面で、スライドや骨組みを貼って、聴衆役を頼みます。貼るのも「外に出す」のうちです。人の名前や、仕事で知り得たことが紙面に残っていないか、貼る前に一度だけ見てください。
  • どうやって: 「〇〇な聴衆になったつもりで、質問を五つ」と役を指定して頼む。答えにくかった質問だけ、下書きを用意。
  • きっかけ: 本番の前日か前々日に。当日の朝だと、直す時間がありません。
ごろはじめの一歩

あせらず、ゴロゴロ。

実録・やってみた

本番の二日前の夜。ごろは、七枚のスライドを一通り眺めて、なんとなく自信がありました。でも、いざ人の前で話すことを想像すると、質問が来たらどうしよう、という不安だけが残ります。そこで、こわい質問を、先に浴びておくことにしました。

手元にあるもの
・スライド7枚(前の話で作ったもの)
・なんとなくの自信
・「質問が来たらどうしよう」の不安
ごろ
ごろが打った文「私の発表のスライドを下に貼ります。AIをまだ触っていない10人の聴衆になったつもりで、この発表に出そうな質問を5つ挙げてください。意地悪でなく、初心者が素朴に思う質問で。」
相棒
相棒の返答「初心者の聴衆として、素朴に思う質問を5つ挙げます。
  1. 『AIって、私の書いたことを勝手に覚えたりしないんですか?』
  2. 『パソコンが苦手でも、本当にできますか?』
  3. 『間違ったことを言われたら、どう見分けるんですか?』
  4. 『スマホでもできますか?』
  5. 『お金は、かかるんですか?』 」

画面で見えること五つの質問が並びました。どれも、意地悪ではなく、初心者が本当に思いそうなものです。

ごろは、一つずつ、声に出して答えてみます。一つ目は「大事なことは入れないようにすれば大丈夫」。二つ目は「話しかけるだけだから平気」。三つ目、四つ目も、なんとか答えられました。ところが、五つ目の「お金はかかるんですか?」で、口ごもります。料金の話は、スライドに一枚も入れていませんでした。

ごろ
ごろが打った文「5つ目の『お金はかかるか』に、うまく答えられませんでした。初心者が安心できる短い答えを、一つ用意してください。細かい料金は言わず、『最初は無料で試せる』の方向で。」
相棒
相棒の返答「短い答えの下書きです。

『まずは、お金をかけずに試せます。無料で始めて、もっと使いたくなったら、そのとき考えれば大丈夫です。今日は、無料の範囲で一回さわってみてください。』」

画面で見えること料金の質問への、短い答えが一つ用意されました。

そのあと、ごろは通しで一度、時間を測りました。

リハーサルの結果
・通しで声に出して読む → 12分(15分の枠に収まった。少し余裕あり)
・詰まった質問 → 「お金」の1つだけ(答えを用意済み)
・言い忘れそうな一言 → まとめの「一回さわってみて」(手元メモに大きく書いた)

こわい質問は、本番でなく家で出会う。 ごろは、五つ浴びて、詰まった一つだけを潰しました。

この日はこう返ってきました。出てくる質問の角度も、答えの言い回しも、頼むたびに毎回すこし違います。

手順
  1. スライドか骨組みを貼って、聴衆役を頼む

    こうした方がいい

    「どんな聴衆か」まで指定すると、質問が本番に近づく

    ごろはこうしてみた

    「初心者10人になったつもりで」と役を指定した。

  2. 出てきた質問に、一度自分で答えてみる

    こうした方がいい

    声に出して答える。詰まる質問が、そこで分かる

    ごろはこうしてみた

    五つ声に出し、五つ目で口ごもった。

  3. 詰まった質問だけ、答えの下書きを用意する

    こうした方がいい

    全部でなく、答えられなかったものだけ

    ごろはこうしてみた

    「お金」の一問だけ、短い答えを用意した。

  4. 通しで一度、時間を測る

    こうした方がいい

    頭の中でなく、声に出して測る。読む速さは、思うより遅い

    ごろはこうしてみた

    12分だった。15分枠に少し余裕があった。

  5. 長ければ削る場所、短ければ足す場所を決める

    こうした方がいい

    芯から遠い場所を削り、余裕は「間」に使う

    ごろはこうしてみた

    余った3分は、実演をゆっくりやる時間にした。

  6. 言い忘れそうな一言を、手元メモに大きく書く

    こうした方がいい

    いちばん伝えたい一つは、飛ばすと痛い

    ごろはこうしてみた

    「一回さわってみて」を大きくメモした。

うまくいったかの確かめ方

家で五つほど質問を浴びて、詰まった質問を一つでも潰せていれば成功です。通しで時間を測って、枠に対して長いか短いかが分かっていれば、本番の「予想外」は、ずいぶん減っています。

答えタップして答え合わせ
ごろ

B。 予想していた質問は、こわくありません。

答えを用意してあるからです。こわいのは、考えてもいなかった質問です。だから、本番の前に、自分では思いつかない質問を相棒に出させて、先に浴びておきます。家で一度会っておけば、本番で同じ質問が来ても、それはもう「予想していた質問」に変わっています。

増補もっと知りたい人へ (3)
深掘り

なぜ、家で質問を浴びておくと、本番が楽になるのでしょうか。本番でこわいのは、質問そのものより、「初めて会う質問に、その場で答えを組み立てる」という作業です。人前で、みんなが見ているなかで、ゼロから答えを考えるのは、家で一人で考えるより、何倍も難しい。ところが、家で一度その質問に会っておくと、本番で同じ質問が来ても、答えを「思い出す」だけで済みます。組み立てるのと、思い出すのは、難しさがまるで違います。相棒に聴衆役をやらせるのが効くのは、あなた一人では、自分の話の「穴」に気づけないからです。話し手は、自分が分かっていることの前提を飛ばしがちで、その飛ばした前提こそ、聞き手が質問したくなる場所なのです。

時間を測るのも、同じ「予想外を減らす」働きです。頭の中で「だいたい十五分ぶんかな」と思っていても、声に出すと、たいてい違います。速く読みすぎて余ることもあれば、間を取りすぎて足りないこともある。声に出して一度測ると、この誤差が見えます。そして、余った時間は、削るためでなく、間を取るために使えます。早口で詰め込むより、大事なところでひと呼吸おくほうが、伝わります。ただし、リハーサルで測れるのは、あくまで目安です。本番は、緊張で速くなったり、質問で延びたりします。だから、きっちり枠ぴったりに作るより、少し余裕を持たせておくほうが安全です。ごろが十二分に収めて、三分を「間」に回したのは、ちょうどいい配分でした。そして、この「声に出して読む」だけは、相棒が代わってはくれません。口が回らない場所は、あなたの口でしか見つからないからです。

例をもっと

このスライドを貼ります。私の話に懐疑的な聴衆になったつもりで、厳しめの質問を5つ。ただし意地悪でなく、真剣に疑問に思う角度で。答えにくいものを教えてほしいです。

この発表を、通しで声に出して読むと、だいたい何分かかりそうか見積もってください。長すぎるなら、芯から遠い場所を削る提案も。

発表の途中で言葉に詰まりそうな箇所を、事前に教えてください。専門用語や、説明が飛んでいそうな場所を、聞き手の目線で。

質問が来なかった場合の「こちらから投げかける問い」を、3つ用意してください。沈黙が続いたときに、場をほぐせる軽いものを。

(医療者向け・ダミーデータ前提)この勉強会の資料に、スタッフが質問しそうな点を5つ。数値や事例はすべて仮のダミーです。答えにくい質問だけ、私が下書きを用意します。

ごろつまずき集
  • 症状: 出てくる質問が、当たりさわりなさすぎる。原因: 聴衆の像を指定していない。一手: 「初心者」「懐疑的な人」など、どんな聴衆かを指定します。役が具体的だと、質問も本番に近づきます。
  • 症状: 全部の質問に、完璧な答えを用意しようとして、疲れる。原因: ゼロを目指している。一手: 詰まった質問だけ用意します。残りは本番で「少し考えさせてください」で大丈夫です。八割で十分です。
  • 症状: 頭の中では時間内なのに、本番で足りない/余る。原因: 声に出して測っていない。一手: 一度、声に出して通します。黙読と音読では、速さがまるで違います。
  • 症状: いちばん言いたい一言を、本番で飛ばした。原因: どこで言うか決めていない。一手: 芯の一言を、手元メモに大きく書いておきます。ごろが「一回さわってみて」を大きく書いたのが、これです。
あせらず、ゴロゴロ。
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