19章 玄関編
19-3

外の仕事の受け方。頼まれごとに、相棒と「受ける・断る・条件を変える」を考える

決めるのは自分、文を作るのは相棒。この二つを、混ぜないことです。

外から「発表してくれませんか」と頼まれたとき、相棒にいちばん手伝ってもらうといいのは、どっちでしょう。

  • A. 断りの文を、代わりに送ってもらうこと
  • B. 受けるか断るかを、一緒に考えてもらうこと

答えは、この話のいちばん下にあります。

この話を読むと

外から来た頼まれごとに、相棒と一緒に「受ける・断る・条件を変える」を落ち着いて考えて、返事の下書きまで作れるようになります。

頼まれごとに困るのは、あなたが優柔不断だからではありません。多くの人がとっさに困るのは、「返事の内容」と「返事の文」を、いっぺんに考えようとするからです。受けるかどうかも決まっていないのに、角の立たない断り文を探し始めて、こんがらがる。まず決めることと、文を作ることを、分けていないのです。ごろも、はじめは、ここで固まりました。

発表依頼の手紙を前に、ごろが『受ける/ことわる/条件を変える』の三分岐で考え、相棒が結果を地図に描く

考え方は、道の分かれ目に立ったときと同じです。分かれ道の前で大事なのは、急いで一本を選ぶことではなく、それぞれの道の先に何があるかを、先に眺めることです。頼まれごとも同じで、「受けたら、どうなる」「断ったら、どうなる」「条件を変えたら、どうなる」の三つを、まず並べて見ます。相棒は、この三つの道の先を、落ち着いて描くのが得意です。

やり方は、二段に分けます。まず、返事の文を作る前に、「受ける・断る・条件を変える、それぞれの良い点と気になる点を挙げて」と頼みます。ここではまだ、文は作りません。判断の材料を、机の上に並べるだけです。そのうえで、自分がどうしたいかを決めます。決めるのは、あなたです。相棒は、決めてくれません。三つの道を照らすところまでが、相棒の仕事です。

決まってから、はじめて返事の文を頼みます。「受けます」なら受ける文、「今回は見送ります」なら角の立たない断り文、「日程を変えてもらえるなら」なら条件をそえた文。ここは下書きです。相手の名前や事情がまざるので、出す前にもう一度、自分で見ます。

そして、ここは太字にします。決めるのは自分、文を作るのは相棒。この二つを、混ぜないことです。 決める前に文を探し始めると、こんがらがります。先に決めて、それから文。この順番だけで、頼まれごとは、ずっと軽くなります。

実演

ごろのところに、勉強会での発表を頼む連絡が来ました。ごろは、嬉しい半面、迷います。そこで、相棒にこう頼みました。

「勉強会で発表してほしい、と頼まれました。まだ受けるか決めていません。返事の文を作る前に、『受ける・断る・日程を相談する』の三つで、それぞれの良い点と気になる点を並べてください。決めるのは私がやります。」

相棒は、三つの道の先を並べました。受ければ、外に出る一歩になる。でも準備の時間が要る。断れば楽だが、せっかくの機会を逃す。日程を相談すれば、準備の時間を確保できる。ごろは、これを見て、「準備の時間さえあれば、やってみたい」と気づきます。三つ目の道です。

得意になったごろは、その場で相棒に「じゃあ、この内容で返事を送っておいて」と頼みそうになります。指が止まりました。「送るのは、自分だった」。ごろは、返事の下書きだけ作ってもらい、相手の名前と日程を自分で確かめてから、自分の指で送りました。

決めるのは自分、文を作るのは相棒。ごろは、外の仕事の受け方を、この一件で覚えました。

【BOX 人間の先生のはなし】人間の先生も、外から声がかかる仕事をたくさん抱えています。講演の依頼、原稿の依頼、取材の依頼。全部は受けられません。そこで先生は、返事を書く前に、いつも自分に問うそうです。「これは、いま自分がやるべきことか」。受ける・断る・条件を変える。この三つを一度机に並べてから決めると、あとで「なんで受けちゃったんだろう」が減る、と。相棒に手伝ってもらうのは、この「並べる」ところ。決めるのは、いつも先生自身です。ここに白衣は出てきません。頼まれごとの、さばき方の話です。

ごろはじめの一歩
  • どこで: いつものチャット画面で。頼まれごとの連絡を、手元に置いて。
  • どうやって: 文を作る前に、「受ける・断る・条件を変える、それぞれの良い点と気になる点を並べて」と頼む。決めてから、文を頼む。
  • きっかけ: 外から頼まれごとが来て、返事に迷った、まさにその瞬間に。迷いは、三つの道を並べる合図です。
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ごろはじめの一歩

あせらず、ゴロゴロ。

実録・やってみた

ある日、ごろのところに、一通の連絡が届きました。近所の勉強会で、AIの使い方について発表してほしい、という頼まれごとです。ごろは、嬉しさと、とまどいで、固まりました。人前で話すなんて、考えたこともありません。でも、断るのも、なんだかもったいない。

届いた頼まれごと
・内容: 勉強会でAIの使い方を発表してほしい
・気持ち: 嬉しい、けど、こわい、けど、興味もある
・困っていること: 受けるか断るか、決められない
・やりかけたこと: 断りの文を、探し始めていた

ごろは、とっさに、角の立たない断りの文を相棒に頼もうとしました。でも、その前に、はたと気づきます。まだ、断ると決めたわけではないのでした。ごろは、頼み方を変えます。

ごろ
ごろが打った文「勉強会で発表してほしい、と頼まれました。まだ受けるか決めていません。返事の文を作る前に、『受ける・断る・日程を相談する』の三つで、それぞれの良い点と気になる点を並べてください。決めるのは私がやります。」
相棒
相棒の返答「三つの道を並べます。
受ける
 良い点: 外に出る一歩になる。話すために自分の理解も整理される
 気になる点: 準備の時間が要る。人前は緊張する
断る
 良い点: 準備の負担がない。いつもの生活が乱れない
 気になる点: せっかくの機会を逃す。次に声がかかるとは限らない
日程を相談する
 良い点: 受けつつ、準備の時間を確保できる
 気になる点: 相手の都合と合うとは限らない

決めるのは、あなたです。どれが、いまの自分に合いそうですか。」

画面で見えること断りの文を探していたごろの前に、三つの道の地図が、先に広がりました。

ごろは、この三つを見比べます。断るのは、正直、楽です。でも、良い点の欄にある「外に出る一歩」という言葉が、朝の「暇だな」とつながって見えました。受けたい。ただ、準備の時間だけが心配です。だとしたら、答えは、三つ目でした。

ごろ
ごろが打った文「決めました。日程を相談する、でいきます。準備の時間さえあれば、やってみたいです。」
相棒
相棒の返答「では、その方向で返事の下書きを作りますか。『お声がけのお礼』『前向きに受けたいこと』『準備のため日程を少し相談したいこと』の三つを入れた、やわらかい文にできます。」

画面で見えること決まったので、ここでようやく、文づくりの話に進みました。

ごろは、得意になって、その勢いで、こう打ちそうになります。

ごろ
ごろが打った文の途中「うん、その内容で、相手に送っておい……」

指が、止まりました。「あ」。送るのは、自分の指でした。ごろは、打ちかけた文を消します。

ごろ
ごろが打った文「送信はしないで、下書きだけ作ってください。相手の名前と、希望の日程は、私が入れて、自分で送ります。」
相棒
相棒の返答「はい、下書きだけ用意します。相手のお名前と希望日は空欄にしてあります。(…お礼と、前向きな受諾と、日程相談をそえた下書き…)このまま送らず、空欄を埋めて、最後はご自分で送信してください。」

画面で見えること返事の下書きが、名前と日程だけ空けた形で出てきました。送信は、ごろの手に残ります。

この一件で、やったこと
・返事の内容 → 三つの道を並べて、自分で決めた(日程を相談)
・返事の文 → 決めてから、相棒に下書きを頼んだ
・送信 → 空欄を埋めて、自分の指で
・分けたこと → 「決める」と「文を作る」を、混ぜなかった

決めるのは自分、文を作るのは相棒。この二つを、混ぜないことです。 ごろは、断りの文を探しかけた手を止めて、先に三つの道を並べたことで、外の仕事の受け方を覚えました。

この日はこう進みました。三つの道のどれを選ぶかは、頼まれごとの中身と、そのときの自分の余裕で、毎回変わります。

手順
  1. 返事の文を、すぐに作り始めない

    こうした方がいい

    「決める」と「文を作る」を分け、まず決めるほうから手をつける

    ごろはこうしてみた

    断りの文を探しかけて、手を止めた。

  2. 三つの道を、並べてもらう

    こうした方がいい

    「受ける・断る・条件を変える」の良い点と気になる点を、文抜きで並べる

    ごろはこうしてみた

    三つの道の地図を、先に出してもらった。

  3. 自分で、どうしたいかを決める

    こうした方がいい

    決めるのは自分。相棒は道を照らすだけ、と割り切る

    ごろはこうしてみた

    「準備の時間さえあれば」で三つ目を選んだ。

  4. 決まってから、返事の下書きを頼む

    こうした方がいい

    選んだ道に合う文だけを、あとから作らせる

    ごろはこうしてみた

    日程相談の下書きを、決めてから頼んだ。

  5. 相手の名前や事情は、自分で入れる

    こうした方がいい

    個別のことがまざる部分は、空欄にして自分で埋める

    ごろはこうしてみた

    名前と日程を空欄のまま受け取った。

  6. 送信は、自分の指で押す

    こうした方がいい

    下書きは相棒、出すのは自分。ここは混ぜない

    ごろはこうしてみた

    「送っておいて」を打ちかけて、指を止めた。

うまくいったかの確かめ方

返事を書き始める前に、「受ける・断る・条件を変える」の三つが目の前に並んでいれば成功です。決めてから文を頼み、最後の送信を自分の指で押せていれば、判断と文づくりが、きれいに分かれています。

答えタップして答え合わせ
ごろ

B。 相棒にいちばん手伝ってもらうといいのは、断りの文ではなく、「受けるか断るか」を一緒に考えることです。

三つの道の先を並べてもらうと、自分がどうしたいかが見えてきます。文を作るのは、そのあとで十分。決めるのはあなた、道を照らすのが相棒、文を下書きするのも相棒。この順番です。

ごろあなたの番3分

そのまま使える文例です。コピーして、自分の言葉に少し変えて使ってみてください。

ある集まりの手伝いを頼まれました。全部は引き受けられません。「全部受ける・一部だけ受ける・今回は見送る」の三つを並べて、それぞれどうなるか教えてください。

友人から、無理のありそうなお願いをされました。角を立てずに、でも自分の負担も守りたいです。まず三つの選択肢を並べて、そのあと、断る場合と条件をつける場合の、両方の下書きを見せてください。

増補もっと知りたい人へ (3)
深掘り

なぜ、頼まれごとで「決める」と「文を作る」を分けると、楽になるのでしょうか。いっぺんにやろうとすると、頭は二つの別の仕事を同時に抱えます。ひとつは「自分はどうしたいか」という、気持ちと都合の話。もうひとつは「どう書けば角が立たないか」という、言葉の話。決めていないのに文を探すと、「断りたいのか、受けたいのか」が定まらないまま、言葉だけがぐるぐる回って、こんがらがります。先に決めてしまえば、あとは決めた道に合う文を作るだけになり、言葉選びが、ぐっと楽になります。

そして、この「三つの道を並べる」は、断るための技術ではありません。むしろ、受けるための技術でもあります。反射で断ってしまう人は、「準備が大変そう」という気になる点だけが大きく見えて、良い点が見えていないことがあります。三つの道を並べると、断る道の「気になる点」、つまり「せっかくの機会を逃す」も、ちゃんと目に入ります。ごろが三つ目の道を選べたのも、受ける道の良い点と、断る道の気になる点が、同時に見えたからです。そして忘れてはいけないのが、決めるのは、最後まで自分だということです。相棒は道の先を照らしますが、どの道を歩くかは決めません。あなたの体調や、その相手との関係や、これから先の予定は、あなたにしかわからないからです。材料は相棒に並べてもらい、決めるのは自分。この分け方は、頼まれごとにかぎらず、外の仕事すべての土台になります。

例をもっと

取材を受けてほしい、と連絡が来ました。まだ決めていません。「受ける・断る・書面で回答する」の三つで、それぞれの良い点と気になる点を並べてください。決めるのは私です。文はまだ作らないで。

ある集まりの手伝いを頼まれました。全部は引き受けられません。「全部受ける・一部だけ受ける・今回は見送る」の三つを並べて、それぞれどうなるか教えてください。

締め切りが厳しい仕事を頼まれました。「そのまま受ける・締め切りを相談する・断る」の三つで整理して。決めたら、選んだ道に合う返事の下書きだけ作ってください。送信は私がします。

友人から、無理のありそうなお願いをされました。角を立てずに、でも自分の負担も守りたいです。まず三つの選択肢を並べて、そのあと、断る場合と条件をつける場合の、両方の下書きを見せてください。

(医療者向け・ダミーデータ前提)院外から講演の依頼が来ました。「受ける・断る・オンラインで代替を提案する」の三つを、負担と機会の面から並べてください。相手の情報や依頼の詳細は、私が別に管理します。

ごろつまずき集
  • 症状: 返事の文が、なかなか決まらず、こんがらがる。原因: 受けるか断るかを決める前に、文を作り始めている。一手: まず「決める」、それから「文を作る」。ごろが断りの文を探しかけて止めたのが、これです。
  • 症状: 頼まれごとを、いつも反射で断ってしまう。原因: 「気になる点」だけが大きく見えている。一手: 三つの道を並べ、断る道の「気になる点(機会を逃す)」も、同時に見ます。良い点も、目に入れます。
  • 症状: 相棒に「どうしたらいい?」と聞いて、決めてもらおうとする。原因: 判断まで相棒に預けている。一手: 相棒は道を照らすだけ、と割り切ります。体調や関係や予定は、あなたにしかわかりません。決めるのは自分です。
  • 症状: 返事の下書きを、そのまま送ってしまいそうになる。原因: 相手の名前や事情の確認を飛ばしている。一手: 名前と個別の事情は空欄にして、自分で埋め、最後は自分の指で送ります。ごろが指を止めたのが、これです。
あせらず、ゴロゴロ。
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