7章 二刀流編
7-3

同じ机を、二匹で同時に触らせない

二匹目に渡すのは、本物ではなく写し。この一線だけ
この話を読むと

二匹を安全に並べて働かせる交通整理の基本が、身につきます。

「交通整理」なんて言うと難しそうですが、やることは横断歩道の信号と同じくらい単純です。二匹を同じ場所に同時に入れない。順番か、別々の机か。それだけ。

二匹目を迎えたごろは、さっそく張り切りました。せっかく手が四本になったのだから、同じ仕事を二匹に同時にやらせれば、倍速になるはずだ。ごろの欲張り癖が、また顔を出します。急いでいたごろは、二匹目に本物のファイルをそのまま渡してしまいました。

すると、二匹が同じ本物を同時に触りはじめて、一匹目が困った顔をします。あれ、さっきの私の直しが消えてる? 二匹がお互いの直しを上書きし合って、最後にどれが正しいのか、誰にも分からなくなってしまったのです。ごろはあわてて手を止めました。倍速どころか、書類がぐちゃぐちゃです。

防ぎ方は、拍子抜けするほど簡単でした。二匹目には、本物ではなく「写し」を渡す。二匹目はその写しの上でいくら手を動かしても、本物は無傷。仕上がったら、一匹目が写しと本物を見比べて、良いところだけを本物に取り込む。机を分ける。それだけです。

離れた写しの机で試し、良い一片だけを余白越しに本物の机へ戻す

ぶつからないかな、とごろは二つの机を交互に眺めます。机が別なら、ぶつからない。あっちで直して、いいところだけこっちに持ってくる。順番を守れば、けんかしない、とごろはひとりうなずきます。

大事なのは、取り込むときの一拍です。二匹目が仕上げても、それをそのまま本物にするのではなく、一匹目が中身を確かめてから反映する。この「確かめてから取り込む」のひと呼吸が、事故を止めます。並走させてもいい。ただし、触る机だけは絶対に分ける。これが二刀流の、たった一つの鉄則です。

開きのクイズ

一匹目と二匹目に、同じ一枚の書類を「同時に」直させました。何が起きる?

  • A: 二匹で協力して、倍の速さでキレイに仕上がる
  • B: どっちの直しが正しいのか分からなくなって、書類がぐちゃぐちゃになる
実演

ごろが、二匹目に写しを渡してこう頼みます。「この写しのほうの言葉づかいだけ、そろえておいて。本物は触らないで」。

二匹目は写しの上で黙々と作業。終わったら、一匹目が写しと本物を見比べて、ここは良い、ここはいらない、と選びながら本物に取り込みます。二匹は一度もぶつかりませんでした。机が、離れていたからです。

ごろはじめの一歩
  • どこで: 二匹目に何かを頼むときは、まず「これは写しかな? 本物かな?」と一呼吸置く
  • どうやって: 頼むとき「本物は触らないで、写しのほうだけ」と一言そえる。取り込みは一匹目にやってもらう
  • きっかけ: 二匹を同時に動かしたくなったら、その前に「机は分かれてる?」と自分に聞く
ごろはじめの一歩

手順(全3ステップ) 1. まず一匹目に「この文章を3行に要約して」と頼み、返ってきた内容をメモしておきます。 2. 同じお願いを、そのままの文言で二匹目〔Codex等〕にも投げます。 3. 二つの返事を上下に並べて読み、「どこが違うか」を一言だけメモします。「こっちは丁寧」「こっちは速い」という体感で十分です。

所要目安: 10分〜15分

到達チェック - できたら○ 一匹目と二匹目に同じお願いを投げ、返事を並べて読んだ - できたら○ 二匹目〔Codex等〕と役割を分ける意味が、自分の目で分かった(7-3)

>

先生の赤ペン:二匹目比較(M6)

見るポイント1 Aは「終わった」と言わない。Bは「終わった」と言わずに終わる。

一匹目(A)の末尾は「もっと短くしたい、子ども向けにやわらかくしたい、といったご要望があれば調整します」と申し出てくる。二匹目(B)の末尾は「雨天時の対応が未記載です。hook: Stop」で完結する。どちらが良い悪いではなく、ループを続けたいときはA、確定作業をスッと終わらせたいときはBが向く。リレーでBに骨格を渡したら、Aが追加した「対象」「回覧印」「申し出」は全部消えて、清書だけが戻ってきた。これはBが「渡されたもの以外を足さない」性格で、ノイズを嫌う後工程に合う。

危険信号 Bの起動ログに18件のERRORが流れても、作業は進んでいる。

初めてBを使うと、このERRORの洪水で「壊れた」と思って止める人がいる。実際にはスキルYAMLの形式エラー(読み飛ばしで継続)とMCPの接続試行失敗(ローカル未起動)で、どちらも作業には影響しない。ログに exec ... succeeded が出ていれば実行は成功している。ERRORのあとに tokens used が表示されたら完走の証拠。止まったように見えても、最後の数行を必ず読むのが鉄則。

次の一手 Bが「8月10日は月曜日」と指摘したとき、どう返すか。

Bは事実確認(カレンダー計算)を自分で行った結果を返してくる。Aには「やさしい言葉で」と頼んでも同じ指摘は出なかった(依頼していないから)。一流なら「本番テキストを渡したとき、Bは事実確認を勝手にやってくれる」という性格を学習する。本番テキストをBに渡すときは、数字・日付・固有名詞が混じっているほど価値が出る。

あせらず、ゴロゴロ。二匹を仲良く働かせるコツは、仲を取り持つことではなく、机を離すこと。それだけで、けんかは起きません。

実録・やってみた

ごろの手元には、大事な自己紹介の下書き(名前はダミーの「山田」)が一枚だけあります。これの語尾を「です・ます」にそろえたいのですが、たった一枚しかないので、失敗して消えたら困る。まずは実物を確認します。

$ ls -la utsushi_73/
自己紹介.txt          (本物、これ一枚だけ)

$ cat utsushi_73/自己紹介.txt
名前は山田(ダミー)
好きな食べ物はカレー
休みの日は散歩する
将来はカフェをやりたい

急いでいたごろは、二匹目に本物をそのまま渡そうとします。

ごろ
ごろが打った文この自己紹介の語尾を『です・ます』にそろえて。あ、一匹目にも同じのを頼んでおくから、二匹で一気に。
相棒
相棒の返答承知しました。ただ、いま同じファイルを一匹目も直しているようです。私の直しと、あちらの直しが、どちらが最後に残るか分かりません。上書きし合うおそれがあります。

画面で見えること二匹が同じ一枚に手を伸ばしていて、どちらの直しが本物になるのか見えない。

これは危ない、とごろは手を止めます。本物は一枚しかない。二匹で同時に触れば、あとから書いたほうが先の直しを塗りつぶす。そこで、写しを先に作って、二匹目には写しだけを渡すことにしました。

ごろ
ごろが打った文(本物から写しを一枚作って、名前に「_コピー」を付けておく) → 二匹目へ: この写しのほうだけ、語尾を『です・ます』にそろえて。本物は絶対に触らないで。
相棒
相棒の返答承知しました。写し(自己紹介_コピー.txt)の語尾だけを整えました。本物のファイルには手を触れていません。仕上がりをご確認ください。

画面で見えること直っているのは写しだけ。本物は開いても、一文字も変わっていない。

仕上がりを、本物と並べて確かめます。

$ ls -la utsushi_73/
自己紹介.txt          (本物・無傷)
自己紹介_コピー.txt   (写し・直された)

$ cat utsushi_73/自己紹介.txt        ← 本物(触っていない)
名前は山田(ダミー)
好きな食べ物はカレー
休みの日は散歩する
将来はカフェをやりたい

$ cat utsushi_73/自己紹介_コピー.txt  ← 写し(です・ますに)
名前は山田です(ダミー)
好きな食べ物はカレーです
休みの日は散歩します
将来はカフェをやりたいです

本物は無傷のまま、写しだけがきれいに直りました。あとは一匹目に、本物と写しを見比べて、良いところだけを本物へ運んでもらえば終わりです。二匹目に渡すのは、本物ではなく写し。この一線だけが事故を止めます。この日はこう返ってきました。写しをどう名づけるか(「_コピー」か「_控え」か)は、そのつど変わります。名前(山田)は学習用のダミーで、本物の個人情報は画面に入れません。

手順
  1. まず、本物が一枚しかないことを確かめる

    こうした方がいい

    「これ一枚きり」だと分かると、写しを作る手間が惜しくなくなる

    ごろはこうしてみた

    自己紹介の本物が一枚だけだと確認し、消えたら困ると身構えた。

  2. 本物から写しを一枚作る

    こうした方がいい

    写しには「_コピー」など、ひと目で分かる目印を付ける

    ごろはこうしてみた

    本物をコピーして「自己紹介_コピー.txt」にした。

  3. 二匹目には「写しだけ、本物は触らないで」と渡す

    こうした方がいい

    「本物は触らないで」を必ず口に出す。省くと本物に手が伸びる

    ごろはこうしてみた

    一度は本物を渡しかけて危なかったので、写しを作り直してから渡した。

  4. 作業のあいだ、本物は「見るだけ・触らない」と決める

    こうした方がいい

    自分も本物に手を出さない。並走が崩れるのはたいてい途中の横やり

    ごろはこうしてみた

    本物は開いて眺めるだけにして、写しの仕上がりを待った。

  5. 一匹目に、写しと本物を見比べて取り込ませる

    こうした方がいい

    写しの直しを丸ごと戻さず、良いところだけを選んで反映する

    ごろはこうしてみた

    見比べて必要な直しだけを本物へ運び、事故なく仕上がった。

うまくいったかの確かめ方

作業のあと、本物のファイルを開いて、一文字も変わっていなければ成功です。写しの名前に目印が付いていれば、どちらが本物か迷いません。取り込みは、見比べてからのひと呼吸を必ず置いてください。

答えタップして答え合わせ
ごろ

B。二匹が同じ書類を別々に直すと、お互いの直しを上書きし合って、最後にどれが正なのか分からなくなります。

二匹目には別の机(写し)で作業させて、終わってから一匹目が本体に取り込む。机を分ける。それだけです。

ごろあなたの番3分

そのまま使える文例です。コピーして、自分の言葉に少し変えて使ってみてください。

(家計簿の写しを渡して)この写しの数字を、月ごとに合計してください。もとの家計簿は、こちらでとっておくので触らないでください。

増補もっと知りたい人へ (3)
深掘り

なぜ、同じ書類を二匹に同時に触らせると、ぐちゃぐちゃになるのでしょうか。ひとつの書類は、いわば一枚しかない紙です。二匹がそれぞれ「ここを直した」と書き込むと、あとから書いたほうが、先に書いたほうを上から塗りつぶしてしまいます。どちらも良かれと思って直しているのに、結果として消し合いになる。しかも、消えたことに気づきにくいのがやっかいです。防ぎ方の要は、二匹目には本物ではなく「写し」を渡すこと。写しは、破ってもいい練習用の紙だと思ってください。二匹目がそこでいくら手を動かしても、本物は無傷のまま、一匹目の手元に残ります。そして、ここがいちばん大事なところですが、写しの直しをそのまま本物にするのではなく、一匹目が中身を確かめてから、良いところだけを本物に運ぶ。この「確かめてから取り込む」ひと呼吸が、事故を止める関所になります。じつはこの型は、この本だけの話ではありません。大勢で一つのものを作る現場では、たいてい「めいめい写しで作業して、まとめ役が確かめてから本体に反映する」やり方をとっています。ごろがやっているのは、その入り口です。並走させても大丈夫。ただ、触る机だけは分ける。それだけ守れば、けんかは起きません。

例をもっと

この写しのほうだけ、言葉づかいを『です・ます』にそろえてください。本物のファイルは触らないで。

(家計簿の写しを渡して)この写しの数字を、月ごとに合計してください。もとの家計簿は、こちらでとっておくので触らないでください。

この文章のコピーのほうで、見出しの体裁を整えてください。もとの原稿はそのままにしておいてください。あとで見比べます。

(趣味のブログ下書きの写しで)この写しの誤字だけ直してください。公開用の本文は別にあるので、そちらは触らないで。

(医療者向け・ダミーデータ前提)この学習用ダミー資料の写しのほうで、用語の表記をそろえてください。もとの資料は残しておいてください。患者さんの実データは含んでいません。

ごろつまずき集
  • 症状: 二匹に頼んだら、あとで本物の直しが消えていた。原因: 二匹目に本物を直接渡してしまった。一手: いったん止めて、本物から写しを作り直し、二匹目には写しだけを渡す。
  • 症状: 写しと本物、どっちがどっちか分からなくなった。原因: 名前の付け方が似すぎている。一手: 写しには「_コピー」など、ひと目で分かる目印を付ける。
  • 症状: 写しの直しを、確かめずに本物へ丸ごと戻して失敗した。原因: 取り込みの一拍を飛ばした。一手: 反映の前に、一匹目に「本物と写しを見比べて、良いところだけ教えて」と頼む。
  • 症状: 並走させたら、やっぱり混乱した。原因: 机は分けたが、途中で本物にも手を出していた。一手: 作業のあいだ、本物は「見るだけ、触らない」と決めておく。
あせらず、ゴロゴロ。
読んだ