AIに勝たなくていい、乗ればいい
AIに勝たなくていい、乗ればいい。
AIの話がしんどくなるのは、たいてい「勝ち負け」で見てしまうからです。
AIに仕事を取られる。使いこなせないと置いていかれる。あの人はもう使っている、自分はまだだ。そんなふうに、追いかけっこにすると、とたんに苦しくなります。速く走る相手と競走したら、疲れるに決まっています。ごろも一度、そう思って布団を深くかぶりました。競走するくらいなら、寝ていたい。
でも、競走しなくていいのです。
川があるとします。向こう岸まで行きたい。このとき、川の流れと競走して泳ぎ切る必要はありません。舟に乗ればいいのです。流れの速さは、敵ではなく、味方になります。AIに勝たなくていい、乗ればいい。 速く動くものには、乗るのが正解です。

ここで、大事な役割分担があります。
舟の行き先を決めるのは、乗っている人です。どこへ行きたいか、それはあなたにしかわかりません。「うちの子が喜ぶ週末を過ごしたい」「たまった書類を片づけたい」。この向きを決める仕事は、AIには渡せません。あなたの人生の向きは、あなたが握っています。
いっぽう、オールを漕ぐのはAIです。調べる、書く、並べ替える、下書きする。手が疲れる作業のほうを、まるごと渡していい。「じゃあ候補を5つ、近場で、雨でもいけるのを挙げて」と頼めば、漕ぎ出してくれます。
>方向は自分、手はAI。この二つを分けた瞬間から、AIはこわいものではなくなります。そして、方向さえ指させれば、あとは任せられるということは、こういうことです。布団の中から行き先を指さすだけで、舟は進む。この本がめざす場所は、そこです。ゴロゴロしたまま、進む。
はじめの一歩- どこで: 頭の中でひとつ。いまかかえている「めんどうな作業」を思い浮かべてください
- どうやって: それを「方向(自分で決めること)」と「作業(渡せること)」に、一度だけ分けてみます
- きっかけ: 「これ、私がやらなくてもいいのかも」と思えた作業が、いちばん最初に舟へ乗せる荷物になります
あせらず、ゴロゴロ。
この節では、ごろはとうとう画面に一言打ちます。手元にあるのは、0-0で見つけた「週末の行き先決め」という荷物。これを「向き」と「作業」に分けて、作業のほうだけ渡す実況です。
ごろは、分けきらないまま、いきなり丸ごと投げてしまいました。
画面で見えること提案でなく、質問で返ってきた。行き先の候補は一つも出ていない。
丸ごと投げると、相手も「向き」がわからず、聞き返してきます。これは失敗ではなく、分けられていなかった合図です。ごろは、左(向き)を自分で決めて、右(作業)だけを渡す形に打ち直しました。
画面で見えること今度は候補が5つ、ちゃんと並んだ。「近場」「雨でも」の条件も効いている。
一言目との差は、左の「子どもと楽しく過ごしたい」という向きを、ごろ自身が決めて渡したことだけです。向きを握って、作業を渡す。分けた瞬間に、相手は漕ぎ出せるようになりました。行き先を5つに絞るところまでは渡せても、どれに行くかを選ぶのは、最後までごろの仕事です。 ここでの返答は一例で、頼む時期や言い方で候補は変わります。毎回すこし違う5つが出てきます。
渡したい困りごとを一つ選ぶ
こうした方がいい0-0で見つけた荷物から一つ持ってくる、新しく探さない
ごろはこうしてみた「週末の行き先決め」を持ってきた
それを「向き(自分で決める)」と「作業(渡す)」に割る
こうした方がいい「手が疲れる部分」に線を引くと作業が浮かぶ
ごろはこうしてみた向き=子どもと楽しく過ごしたい、作業=候補を5つ挙げる、に割れた
まず向きを自分で言葉にする
こうした方がいい向きを飛ばして作業だけ投げると聞き返される
ごろはこうしてみた最初「週末どうしよう」と丸投げして質問で返された、向きを足して直した
向きに続けて、作業だけを一文で頼む
こうした方がいい条件(近場・雨でも等)は作業側に入れる
ごろはこうしてみた「近場で、雨でも大丈夫な候補を5つ」と条件付きで渡した
返ってきた候補から、選ぶのは自分がやる
こうした方がいい選ぶ一手を渡さない、それが向きを握るということ
ごろはこうしてみた5つの中から行き先を自分で決めた
頼んだあと、相手が聞き返さずに候補や下書きを出してくれたら、向きが伝わった合図です。質問で返ってきたら、向きがまだ渡せていません。
増補もっと知りたい人へ (2)
「方向は自分、手はAI」という分け方は、この本の背骨です。少しだけ、なぜここまで大事にするのかを話します。AIは、頼まれた作業をこなすのは得意ですが、「そもそもどこへ行きたいのか」は決められません。あなたの子どもが何を喜ぶか、あなたが今週いちばん片づけたいのは何か。こうした向きは、あなたの人生の中にしかない情報だからです。ここを渡してしまうと、速い舟が、行き先のわからないまま流れていくことになります。
だから、こわさの正体は「AIが速いこと」ではなく、「向きを手放してしまうこと」のほうにあります。向きさえ自分で握っていれば、速さは全部味方になります。速い相手は、競走すると脅威ですが、乗ってしまえば一番の味方です。この分け方が身につくと、新しい道具が出てくるたびに慌てなくなります。「これは向きを決める話か、手を動かす話か」と一度分けるだけで、渡していい部分がすぐ見えるからです。全部の節で、この二分がくり返し出てきます。最初はうまく分けられなくても、たいてい何度かやるうちに、体が覚えていきます。
もうひとつ、先に言っておきたいことがあります。「あったらいいのに」と思ったことは、ありませんか。こんな道具があったら。これとこれがつながったら面白いのに。多くの人はそこで止まってきました。作り方が分からない。頼む相手もいない。勉強する時間もお金もない。だから、その「あったらいいのに」を、そっと棚に戻してきたのです。ごろも同じでした。でも、いまは違います。舟に乗れば、その棚のアイデアが動き出す。AIの時代に残るのは、器用さでも知識でもなく、「あったらいいのに」と思う力のほうだ、と言う人もいます。めんどくさがりのごろに唯一あったのは、実はそれでした。 #### 例をもっと
「方向(自分で決める)」と「作業(渡す)」をペアにしてみます。左が向き、右が渡す言葉です。
週末、子どもと楽しく過ごしたい → じゃあ近場で雨でもいける候補を5つ挙げて たまった書類を今日中に片づけたい → まず何から手をつければいいか、順番を並べて このお店の魅力をお客さんに伝えたい → 短いお知らせ文の下書きを3案つくって(仕事) 苦手な分野を基礎から学びたい → 初心者向けに、順番に読む道すじを作って(学び) 症例の要点を自分の勉強用に整理したい → この経過(すべて架空のダミーデータです)を時系列に並べ直して(医療者向け・患者情報は入れない前提)
右側だけがAIに渡す作業です。左の向きは、いつも自分の手に残します。
つまずき集- 症状: 向きと作業を分けようとすると、全部「自分でやること」に見えてしまう。原因: ふだん一人で全部やっているので、区切りが見えない。一手: 「手が疲れる部分」はどこか、で線を引くと、作業のほうが浮かび上がります。
- 症状: 「行き先を決めるのも、いっそAIに任せたい」と思う。原因: 決めること自体がめんどくさい。一手: 候補を出してもらうのはOKですが、選ぶのは自分に残します。選ぶ一手が、向きを握るということです。
- 症状: 舟の比喩は分かったが、実際の頼み方に落とせない。原因: たとえ話と操作のあいだに距離がある。一手: 0-3で実際に一回さわると、この距離は埋まります。ここでは「分ける」だけできれば十分です。
