第4部 つくって、育てる
4-2

かんたんな道具を作ってもらう

遊び、実用、自動化。この順番が、いちばんラクな坂道です。
この話を読むと

コードを1行も書かずに、自分だけの小さな道具を持てるようになります。

道具を作る、と聞くと身構えます。プログラミングでしょう、と。でも、ここでやるのはプログラミングではありません。注文です。「何を入れたら、何が出てほしいか」を言うだけ。式を組むのも、画面を作るのも、ぜんぶ相棒の仕事です。

ここで大事なのは、いきなり立派なものを狙わないことです。ごろが道具づくりに目覚めたのも、実用からではなく、遊びからでした。

はじめ、ごろはアプリの作り方なんて何も知りませんでした。どうやって世に出すのかも、なぜスマホの中で動くのかも、さっぱりです。だからいきなりは作れない。そこでごろは、まず「その場で動くもの」から始めました。チャットの画面の中で、そのまま見られる1ページ(第1部で使ったあの返事の欄です)。相棒に「かんたんな1ページを作って」と頼んだら、目の前にぺろりと現れたのです。ごろは、布団の上で足をぷらぷらさせました。作れるじゃないか。

まずは遊びで1つ作ってみて、慣れたら次の計算機へ。その順番が、いちばんラクです。次に、よく使う計算を1つ、道具にしました。数字を入れると答えが出る、小さな計算機です。そして、勢いに乗ったごろは、暇にまかせて、なんとゲームまで作ってしまいました。シューティングです。まったく実用ではありません。でも、この「遊び」の寄り道こそが大事でした。遊んでいるうちに、ごろは道具の作り方が体に馴染み、やがて自分の暮らしの自動化へと進んでいったのです。遊び、実用、自動化。この順番が、いちばんラクな坂道です。

欲しい踏み台を伝えると道具が現れ、組み立てた台で高い棚へ届く

もちろん、ごろは欲張って転びます。1台できると嬉しくなって、「ついでにあれも、これも」と、いま困ってもいない道具まで注文しはじめ、気づけば机の上が、使わない踏み台だらけになりました。片づけながら、ごろは学びます。作るのは、実際に毎回やっている作業だけでいい。

ひとつ、置き場所の話をしておきます。この「その場で動く道具」は、チャットの画面の中で作って、その場で使えます。パソコンでもスマホでも、たいてい動きます。一方で、自分のフォルダのファイルを読ませたり整えさせたりする道具は、パソコンの相棒(デスクトップの入り口)にお願いすることになります。どちらで作れるかの細かい線引きは変わることがあるので、迷ったらオンライン追補を見てください。今は「かんたんな道具は、その場でぽんと作れる」とだけ、覚えておけば十分です。

コードの中身は、読まなくて大丈夫です。第2部でごろが学んだとおり、流れる文字は「読むもの」でなく「できたものを受け取るもの」。動く画面だけ、受け取ればいいのです。

開きのクイズ

毎月、飲み会のたびに、エクセルの空きマスで割り勘を手計算しています。ごろはここを楽にしたい。どっちが一歩になるでしょう。

A 「割り勘の計算式をエクセルで調べて、自分でセルに入れてみる」 B 「何を入れたら何が出てほしいかを言葉で伝えて、小さな計算機をぽんと作ってもらう」

実演

あなたが打つのは、こんな一文です。

「数字を2つ入れると、合計と、それを人数で割った金額を出す、小さな計算機を作って。スマホでも使えるように」

すると、入力欄が2つと、結果を表示する画面が、ぽんとできあがります。数字を入れれば、その場で計算。「割引も付けて」と足せば、機能が1つ増えます。式は一切書いていません。それでも、自分の道具が手に入りました。

>
ごろはじめの一歩
  • どこで デスクトップアプリ、またはWebアプリの入力欄
  • どうやって ①「何を入れて」「何が出てほしい」を1文で言う ②出てきた道具を試す ③「ここをこうして」で直す(次の節)
  • きっかけ 同じ計算・同じ確認を、毎回手作業でやっていると気づいたとき

立派なものを作ろうとしなくて、いいのです。遊びから、ぽんと1つ。あせらず、ゴロゴロ。

実録・やってみた

毎月、飲み会の会計で割り勘の計算をしています。エクセルの空きマスに数字を打ち込んで、電卓を叩き直して、そのたびに端数で迷います。これを、その場で動く小さな道具にしてもらいます。フォルダは、まっさらです。

dougu/(空)
ごろ
ごろが打った文数字を2つ入れると、合計を人数で割った1人あたりの金額を出す、小さな割り勘の道具を作って。スマホでも使えるように。
相棒
相棒の返答その場で動く1ページを作りました。金額と人数を入れて「計算」を押すと、1人あたりが出ます。(…画面の説明が数行…)

画面で見えること入力欄が2つと「計算」ボタン。押すと下に金額が出ます。

1回目は、割り切れないときの端数がそのまま小数で出てきました。飲み会では困ります。

ごろ
ごろが打った文1人あたりが「3333.333円」になってしまう。端数は切り上げて、整数の円で出して。
相棒
相棒の返答切り上げに直しました。3人で1万円なら、1人3334円と出ます。(…直した画面…)

画面で見えることさっきは小数だったところが、きれいに「3334円/人」に変わりました。

できあがったのは、たった1枚のファイルです。

dougu/
warikan.html   (中身は7行。計算の式は1行だけ)

式は、ごろは一度も書いていません。それでも、自分の道具が手に入りました。

この日はこう返ってきました。画面の見た目も文言も一例で、頼むたびに少し違います。

手順
  1. 「何を入れて、何が出てほしいか」を1文で言う

    こうした方がいい

    入れるものと出したいものを、1つずつはっきり分けて言います

    ごろはこうしてみた

    「金額と人数を入れる/1人あたりを出す」と分けたら、一発でそれらしい画面が出ました。

  2. 「スマホでも使えるように」を足す

    こうした方がいい

    使う場所(スマホか、パソコンか)を最初に言うと、形が崩れません

    ごろはこうしてみた

    一言足しただけで、スマホで開いても崩れない見た目になりました。

  3. まず遊びで1つ作る

    こうした方がいい

    いきなり実用でなく、動く手ごたえを先に得ると次に進めます

    ごろはこうしてみた

    割り勘の前に、その場で動くだけの1ページを1枚。「作れるじゃないか」で弾みがつきました。

  4. 出てきた道具を、その場で試す

    こうした方がいい

    頭で確かめず、実際に数字を入れて動かします

    ごろはこうしてみた

    3人で1万円を入れたら小数が出て、端数の困りごとにその場で気づけました。

  5. 気になったところだけ、言葉で直す

    こうした方がいい

    全部作り直さず、直したい一点だけを言います(次の節の往復です)

    ごろはこうしてみた

    「端数は切り上げて」の一言で、飲み会で使える形になりました。

うまくいったかの確かめ方: 自分がいつもやっている数字を実際に入れて、正しい答えが画面に出れば成功です。式のファイルは、開いて読まなくてかまいません。動く画面だけ受け取れば十分です。

答えタップして答え合わせ
ごろ

B。Aは道具を「自分で作る」です。

この節は、道具を「注文する」話です。何を入れたら何が出てほしいかを言葉で伝えるだけ。式を組むのも、画面を作るのも、ぜんぶ相棒の仕事です。

ごろあなたの番3分

そのまま使える文例です。コピーして、自分の言葉に少し変えて使ってみてください。

体重を入れると、1日に飲みたい水の量の目安が出る、かんたんな画面を作ってください。

締め切りの日を入れると、あと何日かを大きく表示するカウントダウンを作ってください。

増補もっと知りたい人へ (3)
深掘り

コードを1行も書かないのに、なぜ道具ができるのでしょうか。答えは、あなたのやることが「作る」から「注文する」に変わったからです。何を入れたら何が出てほしいか、それを言葉にするのは人の仕事。式を組み、画面を並べ、動くようにするのは相棒の仕事。この分担が、道具づくりの敷居をぐっと下げました。

もともとこの遊び方には、名前がついています。「バイブコーディング」です。2025年にAndrej Karpathyが名づけ、エンジニア以外にも扉が開いたことで広まりました。ノリや雰囲気で、コードそのものは忘れて委ねてしまう、という発想から広まりました。もとは週末の趣味や使い捨ての試作のための言葉でしたが、いまでは作り手の半分以上が、いわゆるエンジニアではない人たちだと言われています。デザイナーや、企画の人や、それぞれの現場の専門家です。医師のあなたも、その輪の中に入れます。遊び、実用、自動化。 この坂道がラクなのは、最初のひと登りで「動いた」という手ごたえが得られ、それが次のひと登りを引っぱるからです。難しい言葉に身構えず、ノリでいい。名前が拍子抜けするほど素朴なのが、この道具づくりのいいところです。

例をもっと

数字を2つ入れると、合計と、それを人数で割った金額を出す、小さな計算機を作ってください。スマホでも使えるように。

旅行の持ち物を、チェックを付けたら消える一覧にしてください。項目はあとから足せるように。

体重を入れると、1日に飲みたい水の量の目安が出る、かんたんな画面を作ってください。

締め切りの日を入れると、あと何日かを大きく表示するカウントダウンを作ってください。

今月の売上・件数・達成率の三つを、数字を入れたら一目で並ぶ小さな画面にしてください。

(医療者向け・ダミーデータ前提)体重を入れると投与量の目安を計算する練習用の画面を作ってください。実際の処方には使わない学習用と明記して。

ごろつまずき集
  • できた道具が、思っていたのと違う。原因は「何が出てほしいか」があいまいだったこと。一手は「入れるもの」と「出したいもの」を1つずつ、はっきり言い直すこと。
  • スマホで開いたら形が崩れる。原因は画面の大きさを言っていないこと。一手は「スマホでも使えるように」と一言足して作り直してもらうこと。
  • 欲張って機能を足しすぎて、使いにくくなる。原因は、いま困っていない機能まで注文したこと。一手は、実際に毎回やっている作業だけに絞ること。
  • どこで作れるのか迷う。原因は、その場で動く道具と、自分のファイルを触る道具の線引きが分かりにくいこと。一手は、まず「その場で動くかんたんな1ページ」から試すこと。
あせらず、ゴロゴロ。
読んだ