21章 場をひらく編
21-3

当日の進行と、詰まった人の助け方

教える側は、答えを言わず、一緒に画面を見る。

当日、参加者が画面の前で固まってしまいました。教える側として、いちばんいい助け方は、どっちでしょう。

  • A. 「こうですよ」と、答えをさっと言ってあげる
  • B. 「どこで止まってます?」と聞いて、一緒にその画面を見る

答えは、この話のいちばん下にあります。

この話を読むと

当日の進行台本と、詰まった人を助ける「この3手」カードを、相棒と用意できるようになります。そして、教える側のいちばん大事な心得を、一つ持って帰れます。

当日、いちばんこわいのは、参加者が固まったときです。主催した自分が焦ると、その焦りは相手に伝わります。だから、詰まりは「起きるもの」として、先に手を打っておきます。備えがあれば、焦りません。ごろも、はじめての当日、誰かが止まるたびに自分まで固まって、会がぎこちなくなりかけました。

『答えを言わない』の札の下、ごろが固まるタマの画面を指し、三つの矢印カードで支える

進行台本は、相棒に作ってもらいます。ただし、分刻みのきっちりした台本ではありません。「あいさつで言うこと」「実演の入り方」「詰まったときの声かけ」を、ゆるく一枚に。台本は、読み上げるためのものではなく、迷ったとき目を落とす手すりです。

そして、この話のいちばんの中身が「この3手」カードです。参加者が詰まったとき、あわてず順に打つ三手。ひとつ、「どこで止まってますか?」と、まず相手の画面を一緒に見る。ふたつ、答えを言う前に「今、何をしようとしてました?」と聞く。みっつ、それでも進まなければ、相手の言葉をそのまま相棒に打ち込むところを、横で見せる。この三手があるだけで、当日ずっと落ち着いていられます。

そして、ここだけは太字にします。教える側は、答えを言わず、一緒に画面を見る。 さっと答えを言うと、その場は進みます。でも、その人は「教えてもらった」だけで、「自分でできた」になりません。家に帰って、一人で同じ場面にぶつかったとき、また止まります。一緒に画面を見て、本人の指で解けたなら、それは家でも再現できる「できた」になります。

実演

ごろは、こう頼みました。

「はじめてのAI体験会の、当日の進行台本を作ってください。分刻みでなく、『あいさつ・実演の入り方・詰まったときの声かけ』のゆるい一枚で。あと、参加者が詰まったときの『この3手』カードも。答えをすぐ言わない方針で。」

台本とカードが、すっと出てきました。ごろは満足しかけて、3手カードの一手目を見て手が止まります。相棒が「正しい打ち方を教える」と書いていました。ごろは思いました。「教えるより先に、まず一緒に見るんじゃないか」。一手目を「どこで止まってるか、一緒に見る」に書き直しました。

答えを渡すより、となりで一緒に見る。ごろは、教える側の座布団に座って、いちばん大事なことに気づきました。

【BOX 著者のはなし】この本の著者は、いま、勉強会をひらく側にいます。自分の仕事がAIで回るようになってから、次にやりたくなったのは、「同じようにラクになる人を、一人でも増やすこと」でした。だから、AIの使い方を伝える会を、あちこちでひらいています。そこで一つ、はっきり分かったことがあります。いちばん喜ばれるのは、上手な説明ではなく、詰まった人のとなりに座って、同じ画面を一緒に見る時間だ、ということ。答えを言えば五秒で済みます。でも、五秒で渡した答えは、家に帰ると消えています。となりで一緒に解いた一回は、消えません。教える側にまわって、著者はむしろ、自分がいちばん復習になっていることに気づきました。人に教えると、自分の分かっていなかったところが、はっきり見えるのです。

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ごろはじめの一歩
  • どこで: 台本もカードも、チャット画面で下書き。当日は、手元に一枚ずつ置くだけ。
  • どうやって: 進行台本は「ゆるく一枚」で、3手カードは「答えを言わない方針で」と頼む。
  • きっかけ: 会の前日、リマインドを送ったあとに。台本とカードを一枚ずつ手元に置けば、もう準備は終わりです。
ごろはじめの一歩

あせらず、ゴロゴロ。

実録・やってみた

会の前日。案内もリマインドも送り終えて、あとは当日を待つばかり。ごろは、はじめての進行が不安で、手元に一枚、手すりが欲しくなりました。それと、誰かが詰まったときに、あわてない備えも。

不安なこと
・進行がぎこちなくなりそう
・誰かが固まったとき、自分まで焦りそう
用意したいもの
・ゆるい進行台本(一枚)
・詰まった人の「この3手」カード
ごろ
ごろが打った文「はじめてのAI体験会の、当日の進行台本を作ってください。分刻みでなく、『あいさつ・実演の入り方・詰まったときの声かけ』のゆるい一枚で。あと、参加者が詰まったときの『この3手』カードも。答えをすぐ言わない方針で。」
相棒
相棒の返答「台本とカードを用意しました。
〈進行台本(ゆるく)〉
・あいさつ: 「今日は一回、話しかけて返事をもらえたら大成功です」
・こわくない話: 「間違えても、こわれません。気楽に」
・実演の入り方: まずごろが一回やってみせる → 「では、みなさんも」
・声かけ: 止まってる人がいたら「どうですか?」と近づく

〈この3手カード(詰まったとき)〉
1手目: 正しい打ち方を教える
2手目: 代わりに打ってあげる
3手目: できたら次へ

画面で見えること台本はいい感じ。でも「この3手」カードの一手目が、いきなり「正しい打ち方を教える」になっています。

ごろは、台本には満足しました。でも、3手カードを読んで、首をかしげます。これでは、答えを先に渡してしまっている。「教える側は答えを言わない」で頼んだはずなのに。

ごろ
ごろが打った文「3手カードが、答えを先に渡す形になっています。順番を変えてください。1手目は『どこで止まってるか、一緒に画面を見る』、2手目は『今、何をしようとしてたか聞く』、3手目でようやく『本人の言葉を、本人の指で打つのを横で見せる』。代わりに打ってあげるのは、なしで。」
相棒
相棒の返答「答えを渡さず、本人の手で進む形に直しました。
〈この3手カード(詰まったとき)〉
1手目: 「どこで止まってます?」…まず、その人の画面を一緒に見る
2手目: 「今、何をしようとしてました?」…やりたいことを、言葉にしてもらう
3手目: その言葉を、本人の指でそのまま打ってもらう(横で見守る)
 ※答えは言わない。代わりに打たない。指は、いつも本人の。

画面で見えることカードが「一緒に見る → 聞く → 本人が打つ」の順に変わりました。答えを渡す手が、どこにもありません。

仕上がった二枚を、ごろは並べて眺めます。

手元に置く二枚
[1] ゆるい進行台本(迷ったら目を落とす手すり)
[2] この3手カード(一緒に見る→聞く→本人が打つ)

教える側は、答えを言わず、一緒に画面を見る。 ごろは、相棒が最初に出した「教える・代わりに打つ」を、「一緒に見る・本人が打つ」へ組みかえました。

この日はこう返ってきました。台本の言葉づかいや、声かけの例は、頼むたびにすこし変わります。

手順
  1. 進行台本は「ゆるく一枚」で頼む

    こうした方がいい

    分刻みでなく、迷ったとき目を落とす手すりにする

    ごろはこうしてみた

    あいさつ・入り方・声かけの三つだけにした。

  2. 「この3手」カードを、別に作る

    こうした方がいい

    詰まりは起きる前提で、順に打つ三手を先に用意

    ごろはこうしてみた

    台本とは別の一枚にした。

  3. 3手の一手目を「一緒に見る」にする

    こうした方がいい

    まず相手の画面を見る。答えは、まだ言わない

    ごろはこうしてみた

    「どこで止まってます?」を一手目にした。

  4. 二手目で「何をしようとしてたか」聞く

    こうした方がいい

    やりたいことを本人に言葉にさせる

    ごろはこうしてみた

    聞く手を、答える手より前に置いた。

  5. 三手目でも、打つのは本人の指

    こうした方がいい

    代わりに打たない。横で見守るだけ

    ごろはこうしてみた

    「本人の指で」と、はっきり書いた。

  6. 会の最中は、台本より人を見る

    こうした方がいい

    台本は手すり。主役は、詰まっている人の画面

    ごろはこうしてみた

    台本を伏せて、止まった人のそばに座った。

うまくいったかの確かめ方

手元に「ゆるい台本」と「この3手カード」が一枚ずつあって、カードのどこにも「代わりに打つ」「答えを言う」が入っていなければ成功です。当日、詰まった人のとなりに座れていれば、教える側として十分です。

答えタップして答え合わせ
ごろ

B。 答えをさっと言うと、その場は進みますが、その人は「自分でできた」になりません。

「どこで止まってます?」と聞いて、一緒に画面を見て、本人の指で解ければ、それは家に帰っても再現できます。教える側の仕事は、答えを渡すことでなく、本人の「できた」を、となりで見守ることです。

増補もっと知りたい人へ (3)
深掘り

なぜ、答えを言わないほうがいいのでしょうか。答えをさっと渡すのは、じつは教える側にとって、いちばんラクな道です。五秒で済むし、その場は進むし、感謝もされます。でも、渡された側に残るのは「解いてもらった記憶」であって、「自分で解いた記憶」ではありません。家に帰って一人になったとき、頼りにできるのは、自分で解いた記憶のほうです。一緒に画面を見て、本人の指で解けた一回は、家でも再現できます。だから「一緒に見る」は、遠回りに見えて、その人が一人立ちするための近道です。

もう一つ、教える側にとっての得もあります。人に教えると、自分がいちばん復習になります。となりで「どこで止まってます?」と聞き、相手の画面を見ていると、自分が当たり前に飛ばしていた段差が、はっきり見えてきます。「ああ、ここは初めての人には見えないんだ」という発見が、次に自分が使うときの理解を、静かに深くします。教えることは、施しではなく、いちばん濃い復習です。ちなみに、進行台本も3手カードも、相棒が作った下書きです。当日その場で「この声かけは合わなかった」「この順番を変えよう」と動かすのは、あなたです。備えるのは相棒、その場で判断するのは自分。この分け方は、人を相手にする場でこそ効きます。

例をもっと

読書会の進行台本を、ゆるく一枚で。「全員が一言しゃべる」時間を必ず入れて。しゃべるのが苦手な人向けに、話を振るときの声かけ例も三つほど。

オンライン勉強会用の「この3手」カードを作ってください。参加者が「つなげない・音が出ない・画面が固まった」で詰まったとき用。答えを先に言わず、一緒に確かめる順で。

手を動かすワーク中に、進みの速い人と遅い人の差が開いたときの、進行の立て直し方を三つ。速い人には次の課題、遅い人には見て回る、みたいに。

参加者から、答えられない質問が出たときの受け方を教えてください。知ったかぶりをせず、「一緒に調べてみましょう」に持っていく声かけの型で。

(医療者向け・ダミーデータ前提)院内勉強会の進行台本と3手カードを。手を動かす場面で、うっかり実データを入れそうになった人への、やわらかい止め方の声かけも入れてください。扱う題材はすべて仮のダミーです。

ごろつまずき集
  • 症状: 詰まった人に、つい答えを言ってしまう。原因: そのほうがラクで速い。一手: 一手目を「どこで止まってます?」に固定します。ごろが3手カードを組みかえたのが、これです。答えは、いちばん最後まで取っておきます。
  • 症状: 代わりに打ってあげて、その人が家で再現できない。原因: 指を、本人から奪った。一手: 打つのは、いつも本人の指。あなたは横で見守るだけにします。
  • 症状: 台本を読み上げて、会がぎこちない。原因: 台本を「読むもの」にしている。一手: 台本は、迷ったとき目を落とす手すりです。ふだんは伏せて、人の画面を見ます。
  • 症状: 誰かが詰まっているのに、気づけない。原因: 進行に追われている。一手: 前の勝負で人数を絞ったのは、このためです。三〜五人なら、横目で全員の手が見えます。
あせらず、ゴロゴロ。
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