当日の進行と、詰まった人の助け方
教える側は、答えを言わず、一緒に画面を見る。
当日、参加者が画面の前で固まってしまいました。教える側として、いちばんいい助け方は、どっちでしょう。
- A. 「こうですよ」と、答えをさっと言ってあげる
- B. 「どこで止まってます?」と聞いて、一緒にその画面を見る
答えは、この話のいちばん下にあります。
当日の進行台本と、詰まった人を助ける「この3手」カードを、相棒と用意できるようになります。そして、教える側のいちばん大事な心得を、一つ持って帰れます。
当日、いちばんこわいのは、参加者が固まったときです。主催した自分が焦ると、その焦りは相手に伝わります。だから、詰まりは「起きるもの」として、先に手を打っておきます。備えがあれば、焦りません。ごろも、はじめての当日、誰かが止まるたびに自分まで固まって、会がぎこちなくなりかけました。

進行台本は、相棒に作ってもらいます。ただし、分刻みのきっちりした台本ではありません。「あいさつで言うこと」「実演の入り方」「詰まったときの声かけ」を、ゆるく一枚に。台本は、読み上げるためのものではなく、迷ったとき目を落とす手すりです。
そして、この話のいちばんの中身が「この3手」カードです。参加者が詰まったとき、あわてず順に打つ三手。ひとつ、「どこで止まってますか?」と、まず相手の画面を一緒に見る。ふたつ、答えを言う前に「今、何をしようとしてました?」と聞く。みっつ、それでも進まなければ、相手の言葉をそのまま相棒に打ち込むところを、横で見せる。この三手があるだけで、当日ずっと落ち着いていられます。
そして、ここだけは太字にします。教える側は、答えを言わず、一緒に画面を見る。 さっと答えを言うと、その場は進みます。でも、その人は「教えてもらった」だけで、「自分でできた」になりません。家に帰って、一人で同じ場面にぶつかったとき、また止まります。一緒に画面を見て、本人の指で解けたなら、それは家でも再現できる「できた」になります。
ごろは、こう頼みました。
「はじめてのAI体験会の、当日の進行台本を作ってください。分刻みでなく、『あいさつ・実演の入り方・詰まったときの声かけ』のゆるい一枚で。あと、参加者が詰まったときの『この3手』カードも。答えをすぐ言わない方針で。」
台本とカードが、すっと出てきました。ごろは満足しかけて、3手カードの一手目を見て手が止まります。相棒が「正しい打ち方を教える」と書いていました。ごろは思いました。「教えるより先に、まず一緒に見るんじゃないか」。一手目を「どこで止まってるか、一緒に見る」に書き直しました。
答えを渡すより、となりで一緒に見る。ごろは、教える側の座布団に座って、いちばん大事なことに気づきました。
【BOX 著者のはなし】この本の著者は、いま、勉強会をひらく側にいます。自分の仕事がAIで回るようになってから、次にやりたくなったのは、「同じようにラクになる人を、一人でも増やすこと」でした。だから、AIの使い方を伝える会を、あちこちでひらいています。そこで一つ、はっきり分かったことがあります。いちばん喜ばれるのは、上手な説明ではなく、詰まった人のとなりに座って、同じ画面を一緒に見る時間だ、ということ。答えを言えば五秒で済みます。でも、五秒で渡した答えは、家に帰ると消えています。となりで一緒に解いた一回は、消えません。教える側にまわって、著者はむしろ、自分がいちばん復習になっていることに気づきました。人に教えると、自分の分かっていなかったところが、はっきり見えるのです。
はじめの一歩- どこで: 台本もカードも、チャット画面で下書き。当日は、手元に一枚ずつ置くだけ。
- どうやって: 進行台本は「ゆるく一枚」で、3手カードは「答えを言わない方針で」と頼む。
- きっかけ: 会の前日、リマインドを送ったあとに。台本とカードを一枚ずつ手元に置けば、もう準備は終わりです。
はじめの一歩あせらず、ゴロゴロ。
会の前日。案内もリマインドも送り終えて、あとは当日を待つばかり。ごろは、はじめての進行が不安で、手元に一枚、手すりが欲しくなりました。それと、誰かが詰まったときに、あわてない備えも。
不安なこと
・進行がぎこちなくなりそう
・誰かが固まったとき、自分まで焦りそう
用意したいもの
・ゆるい進行台本(一枚)
・詰まった人の「この3手」カード〈進行台本(ゆるく)〉
・あいさつ: 「今日は一回、話しかけて返事をもらえたら大成功です」
・こわくない話: 「間違えても、こわれません。気楽に」
・実演の入り方: まずごろが一回やってみせる → 「では、みなさんも」
・声かけ: 止まってる人がいたら「どうですか?」と近づく
〈この3手カード(詰まったとき)〉
1手目: 正しい打ち方を教える
2手目: 代わりに打ってあげる
3手目: できたら次へ」
画面で見えること台本はいい感じ。でも「この3手」カードの一手目が、いきなり「正しい打ち方を教える」になっています。
ごろは、台本には満足しました。でも、3手カードを読んで、首をかしげます。これでは、答えを先に渡してしまっている。「教える側は答えを言わない」で頼んだはずなのに。
〈この3手カード(詰まったとき)〉
1手目: 「どこで止まってます?」…まず、その人の画面を一緒に見る
2手目: 「今、何をしようとしてました?」…やりたいことを、言葉にしてもらう
3手目: その言葉を、本人の指でそのまま打ってもらう(横で見守る)
※答えは言わない。代わりに打たない。指は、いつも本人の。」
画面で見えることカードが「一緒に見る → 聞く → 本人が打つ」の順に変わりました。答えを渡す手が、どこにもありません。
仕上がった二枚を、ごろは並べて眺めます。
手元に置く二枚
[1] ゆるい進行台本(迷ったら目を落とす手すり)
[2] この3手カード(一緒に見る→聞く→本人が打つ)教える側は、答えを言わず、一緒に画面を見る。 ごろは、相棒が最初に出した「教える・代わりに打つ」を、「一緒に見る・本人が打つ」へ組みかえました。
この日はこう返ってきました。台本の言葉づかいや、声かけの例は、頼むたびにすこし変わります。
進行台本は「ゆるく一枚」で頼む
こうした方がいい分刻みでなく、迷ったとき目を落とす手すりにする
ごろはこうしてみたあいさつ・入り方・声かけの三つだけにした。
「この3手」カードを、別に作る
こうした方がいい詰まりは起きる前提で、順に打つ三手を先に用意
ごろはこうしてみた台本とは別の一枚にした。
3手の一手目を「一緒に見る」にする
こうした方がいいまず相手の画面を見る。答えは、まだ言わない
ごろはこうしてみた「どこで止まってます?」を一手目にした。
二手目で「何をしようとしてたか」聞く
こうした方がいいやりたいことを本人に言葉にさせる
ごろはこうしてみた聞く手を、答える手より前に置いた。
三手目でも、打つのは本人の指
こうした方がいい代わりに打たない。横で見守るだけ
ごろはこうしてみた「本人の指で」と、はっきり書いた。
会の最中は、台本より人を見る
こうした方がいい台本は手すり。主役は、詰まっている人の画面
ごろはこうしてみた台本を伏せて、止まった人のそばに座った。
手元に「ゆるい台本」と「この3手カード」が一枚ずつあって、カードのどこにも「代わりに打つ」「答えを言う」が入っていなければ成功です。当日、詰まった人のとなりに座れていれば、教える側として十分です。
答えタップして答え合わせ

B。 答えをさっと言うと、その場は進みますが、その人は「自分でできた」になりません。
「どこで止まってます?」と聞いて、一緒に画面を見て、本人の指で解ければ、それは家に帰っても再現できます。教える側の仕事は、答えを渡すことでなく、本人の「できた」を、となりで見守ることです。
増補もっと知りたい人へ (3)
なぜ、答えを言わないほうがいいのでしょうか。答えをさっと渡すのは、じつは教える側にとって、いちばんラクな道です。五秒で済むし、その場は進むし、感謝もされます。でも、渡された側に残るのは「解いてもらった記憶」であって、「自分で解いた記憶」ではありません。家に帰って一人になったとき、頼りにできるのは、自分で解いた記憶のほうです。一緒に画面を見て、本人の指で解けた一回は、家でも再現できます。だから「一緒に見る」は、遠回りに見えて、その人が一人立ちするための近道です。
もう一つ、教える側にとっての得もあります。人に教えると、自分がいちばん復習になります。となりで「どこで止まってます?」と聞き、相手の画面を見ていると、自分が当たり前に飛ばしていた段差が、はっきり見えてきます。「ああ、ここは初めての人には見えないんだ」という発見が、次に自分が使うときの理解を、静かに深くします。教えることは、施しではなく、いちばん濃い復習です。ちなみに、進行台本も3手カードも、相棒が作った下書きです。当日その場で「この声かけは合わなかった」「この順番を変えよう」と動かすのは、あなたです。備えるのは相棒、その場で判断するのは自分。この分け方は、人を相手にする場でこそ効きます。
読書会の進行台本を、ゆるく一枚で。「全員が一言しゃべる」時間を必ず入れて。しゃべるのが苦手な人向けに、話を振るときの声かけ例も三つほど。
オンライン勉強会用の「この3手」カードを作ってください。参加者が「つなげない・音が出ない・画面が固まった」で詰まったとき用。答えを先に言わず、一緒に確かめる順で。
手を動かすワーク中に、進みの速い人と遅い人の差が開いたときの、進行の立て直し方を三つ。速い人には次の課題、遅い人には見て回る、みたいに。
参加者から、答えられない質問が出たときの受け方を教えてください。知ったかぶりをせず、「一緒に調べてみましょう」に持っていく声かけの型で。
(医療者向け・ダミーデータ前提)院内勉強会の進行台本と3手カードを。手を動かす場面で、うっかり実データを入れそうになった人への、やわらかい止め方の声かけも入れてください。扱う題材はすべて仮のダミーです。
つまずき集- 症状: 詰まった人に、つい答えを言ってしまう。原因: そのほうがラクで速い。一手: 一手目を「どこで止まってます?」に固定します。ごろが3手カードを組みかえたのが、これです。答えは、いちばん最後まで取っておきます。
- 症状: 代わりに打ってあげて、その人が家で再現できない。原因: 指を、本人から奪った。一手: 打つのは、いつも本人の指。あなたは横で見守るだけにします。
- 症状: 台本を読み上げて、会がぎこちない。原因: 台本を「読むもの」にしている。一手: 台本は、迷ったとき目を落とす手すりです。ふだんは伏せて、人の画面を見ます。
- 症状: 誰かが詰まっているのに、気づけない。原因: 進行に追われている。一手: 前の勝負で人数を絞ったのは、このためです。三〜五人なら、横目で全員の手が見えます。
