第5部 使い切る/終章
6-2

この先の広げ方(ゆるく)

ゴロゴロ名人
少し開いた障子の先の道具箱と本を見て、ごろは今日は行かず戸を閉める

ここは、本書の天井まで来た人へのおまけです。この先はゆっくりでよくて、触らなくても、あなたの毎日はちゃんと回ります。まず、それを先に保証しておきます。

もし、もう少しだけ広げたくなったら。欲張らず、次のひとつだけを選んでください。置き手紙を、もう一行だけ育てる。合言葉を、ひとつだけ増やす。そのどちらかで、じゅうぶんです。

広げる、というのは、新しいものを積み増すことではありません。今もっているものを、少しだけ豊かにすること。たとえば、こんなふうに。

「今つくった置き手紙に、もう一つだけ私の好みを足したいです。『長い文章は、最後にかならず3行のまとめを付ける』を覚えておいて。」

大がかりな新機能ではありません。すでに持っている置き手紙に、一行だけ足す。それだけで、相棒はまた少し、あなたに似ていきます。

この先、画面や入口の形は、きっと変わっていきます。名前が変わったり、ボタンの場所が動いたりする。でも、あわてなくて大丈夫。細部が変われば、そのときの最新のやり方はオンライン追補に置いておきます。そして、いちばん大事なところは、いつまでも変わりません。方向を決めるのは自分、手を動かすのはAI。この型さえ握っていれば、道具がどう変わっても、あなたは迷いません。

それから、ひとつだけ。医療の現場でAIを使いたい、という人がいるかもしれません。私自身が小児科の医者なので、その気持ちはよく分かります。でも、この本は、そこには踏み込みませんでした。医療でのAIは、また別の作法が要る、重い場所だからです。もし本気で使いたくなったら、そのための本を別に用意しています。障子の向こうに、そっと置いておきます。

さて。ごろは、障子を閉めて、また丸くなりました。行きたくなったら、いつでも行ける。でも、今日はゴロゴロです。

窓の外は、おだやかな朝です。ごろは布団の中で、もう一度目を閉じました。方向を決めたのは、ずっとごろ。手を動かしたのは、この子。AIに勝たなくていい、乗ればいい。

ふと、横のモニターを見て、ごろは思い出します。

Claude?

>

……うん。けっこう、美味しかった。

>

あせらず、ゴロゴロ。

ごろはじめの一歩
  • どこで: すでに使っている置き手紙か、よく使う合言葉の上で
  • どうやって: 新しいことを覚えるのでなく、今あるものに一行だけ足す
  • きっかけ: 「これも毎回言ってるな」と気づいたこと。それが次に仕込むひとつ

認定: ここにごろを、ゴロゴロ名人と認めます。長い長い冒険は、これでおしまい。おかえりなさい、布団の中へ。

実録・やってみた

天井まで来たごろの「もう少しだけ広げる」は、新機能でなく、今ある置き手紙に一行足すだけです。手元には、これまで育ててきた置き手紙があります。中身はこの2行だけ(ダミー)。

# わたしの置き手紙
- むずかしい言葉は使わず、やさしい言い方で。
- 返事はいつも、です・ます で。

ここに、最近くり返し言っている好みを、一つだけ足します。まずは、置き手紙のことを言い忘れて、その場かぎりで頼んでみました。

ごろ
ごろが打った文これから長い文章のときは、最後に3行のまとめを付けて。
相棒
相棒の返答承知しました。今回の文章の最後に、3行のまとめを付けます。

画面で見えること今回は付いた。でも、これは「今回だけ」で、明日にはまた言い直しになりそう。

その場かぎりでは、また毎回言うことになります。だから、置き手紙に一行として仕込みます。

ごろ
ごろが打った文それを置き手紙に一行足して、これからずっと覚えておいて。「長い文章は、最後にかならず3行のまとめを付ける」。
相棒
相棒の返答承知しました。置き手紙に追記しました。以降は毎回、長い文章の最後に3行のまとめを付けます。

画面で見えること置き手紙が、2行から3行に増えた。中身はこう(ダミー)。

# わたしの置き手紙
- むずかしい言葉は使わず、やさしい言い方で。
- 返事はいつも、です・ます で。
- 長い文章は、最後にかならず3行のまとめを付ける。

もうひとつの広げ方も、その場でやってみました。よく頼む長い頼みごとに、短い名前を付けておくやり方です。

ごろ
ごろが打った文私がいつも頼む「今日の献立を、冷蔵庫の残り物から3つ考えて、いちばん簡単なものの手順も付けて」に、『晩ごはん会議』という名前を付けて。次からはその一言で呼び出せるようにして。
相棒
相棒の返答承知しました。『晩ごはん会議』と言えば、冷蔵庫の残り物から献立を3つ挙げ、いちばん簡単なものの手順まで出す、として覚えました。次からは一言でどうぞ。

画面で見えること翌日「晩ごはん会議」とだけ打ったら、いつもの長い頼みが丸ごと立ち上がり、こう返ってきた(ダミー)。

晩ごはん会議です。冷蔵庫の残り物から3案:
1. 卵と玉ねぎの親子丼(いちばん簡単・手順つき)
2. 豚こまと野菜の炒めもの
3. 冷蔵庫の残りでスープ
1の手順: …

五行の頼みが、四文字になりました。

大がかりな新機能ではありません。すでに持っている置き手紙に一行、よく使う頼みに名前を一つ。それだけで、相棒はまた少し、ごろに似ていきます。この日は一行の追記と、合言葉の登録で済みました。「今回だけ」で終わらせず、置き手紙か合言葉に仕込むのが、広げるということです。

手順
  1. 「これも毎回言ってるな」と気づいた好みを一つ拾う

    こうした方がいい

    同じ頼みを二度したと気づいたら、それが仕込みどきです

    ごろはこうしてみた

    「長い文章は3行のまとめ」を毎回言っていた。

  2. 新機能を覚えるのでなく、今ある置き手紙か合言葉に足す形にする

    こうした方がいい

    積み増しより手元を育てるほうが、こわくなく確実に効きます

    ごろはこうしてみた

    新しい道具を増やさず、置き手紙に寄せた。

  3. その場かぎりでなく「置き手紙に一行足して、ずっと覚えて」と頼む

    こうした方がいい

    「今回だけ」で終わらせないと、毎回言い直さずに済みます

    ごろはこうしてみた

    一度その場かぎりで頼み、仕込み直した。

  4. 足すのは一度に一行だけにする

    こうした方がいい

    一行ずつなら、効き目を確かめながら育てられます

    ごろはこうしてみた

    今日はこの一行だけにして、他は次回に回した。

うまくいったかの確かめ方: 足した一行が「新しい機能」でなく「今あるものへの追記」になっていれば、無理のない広げ方です。次に同じ頼みをしたとき、言わなくても効いていれば成功です。

ごろあなたの番3分

そのまま使える文例です。コピーして、自分の言葉に少し変えて使ってみてください。

今つくった置き手紙に、もう一つだけ私の好みを足したいです。「長い文章は、最後にかならず3行のまとめを付ける」を覚えておいて。

増補もっと知りたい人へ (5)
深掘り

「広げる」と聞くと、新しいものを積み増すことだと思いがちですが、ここでの広げるは逆です。今もっているものを、少しだけ豊かにすること。 すでに使っている置き手紙に一行足す、よく使う合言葉を一つ増やす。それだけで、相棒はまた少しあなたに似ていきます。大がかりな新機能を覚えるより、手元の道具を育てるほうが、こわくなく、確実に効きます。この先、画面や入口の形は変わっていくでしょう。名前が変わったり、ボタンの場所が動いたりする。でも、あわてなくて大丈夫です。細部が変われば、そのときの最新のやり方はオンライン追補に置いておきます。そして、いちばん大事なところは、いつまでも変わりません。方向を決めるのは自分、手を動かすのはAI。この型さえ握っていれば、道具がどれだけ姿を変えても、あなたは迷いません。医療の現場でAIを使いたい人には、この本はそこには踏み込まないと正直に伝えておきます。医療は、また別の作法が要る重い場所だからです。もし本気で使いたくなったら、そのための本を別に用意しています。障子の向こうに、そっと置いてあります。今日は、行かなくていい。ゴロゴロで、じゅうぶんです。

そういえば、最後にもう一つ種明かしをしておきます。この本を通してごろが学んできたのは、相棒をより賢くする方法だけではありませんでした。止める・確認する・段階で広げる・元に戻す。失敗しても大丈夫な仕組みを先に作る、という考え方が、ずっと本の底を流れていました。相棒を賢くするより、失敗しても大丈夫な仕組みを作る。それが、この本の裏テーマでした。

例をもっと

今つくった置き手紙に、もう一つだけ私の好みを足したいです。「長い文章は、最後にかならず3行のまとめを付ける」を覚えておいて。 よく頼む「今日の献立を考えて」に名前を付けて、次からは一言で呼べるようにしたいです。 置き手紙に「むずかしい言葉は使わず、小学生でも分かる言い方にして」を一行だけ足してください。 いつもの週末の片づけの頼みごとを、ひとまとめの合言葉にして登録しておきたいです。 (医療者向け・ダミーデータ前提)勉強用のまとめを作るときの決まりとして、「出典が確かめられない話は書かない」を置き手紙に一行足しておいて。患者情報は扱いません。

ごろつまずき集
  • 症状: 広げようとして、いきなり難しい新機能に手を出して疲れた。原因: 積み増しで広げようとした。一手: 今ある置き手紙か合言葉に、一行だけ足す形に戻す。
  • 症状: 入口の名前が変わって、やり方が分からなくなった。原因: 細部の変化に驚いた。一手: あわてず、その時点の最新のやり方をオンライン追補で確かめる。
  • 症状: 医療の相談に使いたいが、どこまで頼んでいいか不安。原因: この本の範囲を超えている。一手: 医療は別の作法が要ると割り切り、専用の本のほうに進む。
  • 症状: 「これも毎回言ってるな」に気づけない。原因: 繰り返しを意識していない。一手: 同じ頼みを二度したと気づいたら、それを置き手紙に一行として仕込む。
余談: AIソムリエにはならなくていい

新しい機能は次々に出ます。いつまで追いかければいいのか、と気が遠くなる夜があります。そういうとき、私が自分に言い聞かせているのは、AIソムリエにはならない、ということです。ワインに詳しいソムリエは立派な仕事ですが、ふつうの人がワインの知識を極めても、それ自体はごはんを一段おいしくするわけでも、仕事を片づけてくれるわけでもありません。AIも同じで、新機能に詳しくなること自体は、たいてい仕事にもならないし、自分の困りごとを解いてもくれない。ワインは、飲むためにあります。ソムリエになるためではありません。追いかけるのをやめて、今もっている一杯を、ゆっくり味わえばいいのです。増やさず育てる、というのは、たぶんそういうことでした。

この章の転用サマリ

終章の6-1〜6-2は、連続講座の最終回のまとめ回1コマ(30〜45分)にちょうど収まります。M3連載なら最終回1本として、序章と今の自分を並べた「来た道」の振り返り→明日やる一つの予約→今あるものを一行育てる、の流れで組めます。日経メディカルには6-2の「増やさず育てる」と医療は別の作法という線引きが医師読者に効き、コラム1本になります。勉強会では、6-1の「明日やる一つを予約する」10分ワークが、どの回の締めにも差し込める汎用パーツとして使えます。第一篇の閉じとして、新しいことを足さず、今日ここまでで十分だと読者を見送るのが、この章の役割です。

あせらず、ゴロゴロ。
読んだ