19章 玄関編
19-1

回るようになった朝の、渇き。「……暇だな」から始まる、次の一歩

大事なのは、自分の「あったらいいのに」を、一度ぜんぶ目に見えるところに出しておくことです。

毎朝の仕事が全部ひとりでに終わるようになったとき、次に出てくる気持ちは、どっちだと思いますか。

  • A. やることが減って、ただ嬉しい
  • B. なんだか物足りなくて、次に何かしたくなる

答えは、この話のいちばん下にあります。

この話を読むと

回るようになったあとにやってくる「なんだか暇だ」という気持ちを、次の一歩の合図として受け取れるようになります。

物足りなさを感じても、あなたがぜいたくなわけではありません。仕組みで手が空いた人の多くが、同じ場所を通ります。めんどくさいことを片づけるために身につけた力が、片づけ終わると、行き場をなくす。この行き場のなさが、「暇だな」の正体です。ごろも、まさにここで立ち止まりました。

朝の布団で仕事が終わった画面を横に、ごろが目を開けたまま『……暇だな』とつぶやき、閉じた玄関が淡く光る

考え方は、片づけの終わった机と同じです。ずっと散らかっていた机を片づけると、最初は気持ちいい。でも、きれいになった机を前にして、しばらくすると、こう思います。「さて、ここで何をしよう」。片づけはゴールではなくて、何かを始めるための、始まりの合図なのです。仕事が回るようになったあとの「暇だな」も、これと同じ。終わりではなく、次の始まりです。

ここでやるのは、大げさなことではありません。自分の中にずっとあった「あったらいいのに」を、棚おろしするだけです。「こんなものがあったら便利なのに」「これとこれがつながったら面白いのに」。今まで、めんどくさいから、時間がないから、作り方がわからないから、と見送ってきた小さな願い。それを、思い出せるだけ書き出します。ひねり出すのではありません。もう自分の中にあるものを、棚から下ろすだけです。

そして、ここだけは太字にします。この棚おろしで、いますぐ何かを作る必要はありません。大事なのは、自分の「あったらいいのに」を、一度ぜんぶ目に見えるところに出しておくことです。 出しておけば、いつか手が空いたときに、そこから一つ選べます。渇きは、リストになると、楽しみに変わります。

実演

ごろは、相棒にこう頼みました。

「最近、仕事が回るようになって、ちょっと暇です。前から『こんなものがあったらいいのに』と思っていたことを、一緒に棚おろししたいです。私が思いつくままに言うので、あとで見やすい一覧にまとめてください。まだ、作るかどうかは決めません。」

ごろは、ぽつぽつと話し始めました。近所の落とし物マップがあったらいいのに。飼い主さんたちが使える、爪とぎの記録帳。読んだ本の気に入った一行を集める場所。相棒は、それを黙って受け取り、あとで見やすい一覧に整えます。ごろは、自分でも忘れていた願いが、こんなにあったことに驚きました。

得意になったごろは、その場で全部を作り始めようとします。ところが、三つ目で手が止まりました。「いっぺんには、無理だ」。そこで気づきます。棚おろしは、作る作業ではなくて、選べるようにしておく作業だった、と。ごろは、一覧を閉じて、「暇だな」が「楽しみだな」に変わったのを感じました。

ごろはじめの一歩
  • どこで: いつものチャット画面で。特別な道具はいりません。
  • どうやって: 「前から『あったらいいのに』と思っていたことを、思いつくまま言うので、一覧にして」と頼む。作るかどうかは決めない。
  • きっかけ: 仕事が回るようになって「暇だな」と感じた、まさにその朝に。物足りなさは、棚おろしの合図です。
ごろはじめの一歩

手順(全3ステップ):

  1. 「前から『あったらいいのに』と思っていたことを、思いつくまま言うので、一覧にして」と頼む。ひねり出さず、もう自分の中にあるものを出す。
  2. 一覧を「だれかのため」と「自分のため」に仕分けてもらう。
  3. 全部を今日作ろうとしない。一覧から一つだけ選んで、残りは「また今度」に置く。

所要目安:10分〜15分

到達チェック:

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  • できたら○ 「あったらいいのに」が、頭の中から出て、目に見える一覧になった
  • できたら○ その中から、まず動かす一つを自分で選べた

あせらず、ゴロゴロ。

実録・やってみた

ある朝のことです。ごろは、いつものように目を覚まし、かたわらのモニターを見ました。今朝の仕事は、もう終わっています。写真の整理も、下書きの用意も、ぜんぶ。いつもなら、ここで満足して二度寝するはずでした。ところが、この日は、なぜか目が冴えています。

今朝の状態
・毎朝の仕事 → 終わっている
・やること → 特にない
・気分 → 満たされているはずなのに、なぜか物足りない
・つぶやき → 「……暇だな」

ごろは、しばらく天井を見つめてから、スマホを手に取りました。この物足りなさが何なのか、相棒に聞いてみることにしたのです。

ごろ
ごろが打った文「最近、仕事が回るようになって、朝が暇です。満たされてるはずなのに、なんか物足りない。この気持ちは何でしょう。」
相棒
相棒の返答「手が空いたあとに出てくる物足りなさは、めずらしくありません。片づけのために身につけた力が、片づけ終わって行き場を探している状態です。よければ、前から『あったらいいのに』と思っていたことを、思い出せるだけ挙げてみませんか。棚おろしすると、その物足りなさが、次にやりたいことの一覧に変わることがあります。」

画面で見えること「暇だな」への答えが、いきなり作業の提案ではなく、まず気持ちの整理から始まりました。

ごろは、なるほど、と思いました。そういえば、ずっと胸の奥にあった小さな願いが、いくつもあった気がします。ごろは、思い出せるだけ、ぽつぽつと打ち込んでいきました。

ごろ
ごろが打った文「じゃあ言ってみます。近所の落とし物マップ。飼い主さん向けの爪とぎ記録帳。読んだ本の好きな一行を集める場所。散歩コースの日陰マップ。あと、たまに作りたいごはんのメモ。順番はバラバラです。」
相棒
相棒の返答「五つ、受け取りました。見やすいように、種類ごとに並べ直します。
だれかのために(外向き)
・近所の落とし物マップ
・飼い主さん向けの爪とぎ記録帳
自分のために(内向き)
・読んだ本の好きな一行を集める場所
・散歩コースの日陰マップ
・作りたいごはんのメモ

まだ、どれも作らなくて大丈夫です。まず、目に見えるところに出しておくだけにしましょう。」

画面で見えることバラバラに出した願いが、「だれかのために」と「自分のために」に、そっと仕分けされました。

ごろは、この一覧を見て、はっとします。自分の中に、こんなに「あったらいいのに」があったのか。しかも、上のふたつは、自分のためではなく、誰かのための願いでした。得意になったごろは、勢いで、全部いっぺんに作り始めようとします。

ごろ
ごろが打った文「これ全部、今日作れますか。上から順番に。」
相棒
相棒の返答「一気にやることもできますが、五つを同時に始めると、たぶんどれも中途半端になります。今日はまだ棚おろしの日にして、作るのは、この中から一つだけ選んでからにしませんか。一覧は残しておくので、いつでも選べます。」

画面で見えること相棒は、すぐには作り始めずに、一つ選んでからにする、という進め方を先に見せてきました。

ごろは、ここで思い出します。欲張ると、転ぶのでした。全部いっぺんは、ごろの一番の弱点です。ごろは、一覧を閉じました。今日は、これでいい。作るのは、また今度。

この朝、変わったこと
・「……暇だな」 → 「あ、あれも作りたかったんだ」
・物足りなさ → 五つの願いの一覧
・気分 → 「暇だな」が「楽しみだな」に変わった

大事なのは、自分の「あったらいいのに」を、一度ぜんぶ目に見えるところに出しておくことです。 この朝、ごろの渇きは、リストに変わりました。

この日はこう返ってきました。同じように「暇だ」と打っても、そこから出てくる棚おろしの中身は、その人ごとに毎回まったく違います。

手順
  1. 「暇だな」を、次の合図として受け取る

    こうした方がいい

    物足りなさを消そうとせず、「次に何かしたいサインだ」と読み替える

    ごろはこうしてみた

    二度寝せずに、この気持ちを相棒に聞いてみた。

  2. 「あったらいいのに」を、思いつくまま挙げる

    こうした方がいい

    ひねり出さず、もう自分の中にあるものを、順番バラバラで出す

    ごろはこうしてみた

    落とし物マップも本の一行も、思い出した順に五つ並べた。

  3. 出したものを、一覧にまとめてもらう

    こうした方がいい

    「だれのため」で仕分けると、外向きと内向きが見えてくる

    ごろはこうしてみた

    上ふたつが「誰かのため」だと気づいた。

  4. いますぐ作ろうとしない

    こうした方がいい

    棚おろしは、選べるようにする作業。作る作業ではない

    ごろはこうしてみた

    全部作ろうとして、一つに絞り直した。

  5. 一覧を、消さずに残しておく

    こうした方がいい

    手が空いたとき、ここから一つ選べるようにしておく

    ごろはこうしてみた

    一覧はそのまま置いて、その日は閉じた。

  6. 気が向いたら、一つだけ選ぶ

    こうした方がいい

    選ぶのは今日でなくていい。渇きがリストになっていれば十分

    ごろはこうしてみた

    「作るのは、また今度」と決めた。

うまくいったかの確かめ方

自分の「あったらいいのに」が、頭の中から出て、目に見える一覧になっていれば成功です。その中に「そういえば、これ、ずっとやりたかった」というものが一つでもあれば、棚おろしが効いています。

答えタップして答え合わせ
ごろ

B。 やることが減ると、多くの人はいったん嬉しくなり、それから物足りなくなります。

この物足りなさは、あなたの力が行き場を探しているサインです。悪いものではありません。次に何をしたいか、を教えてくれる合図です。「暇だな」と思ったら、棚おろしのときが来た、ということです。

ごろあなたの番3分

そのまま使える文例です。コピーして、自分の言葉に少し変えて使ってみてください。

やることが減って、逆に落ち着かないです。この気持ちの正体を一緒に整理して、そのうえで「次にやってみたいこと」の候補を、私の話から拾って並べてください。

「こんなサービスがあったらいいのに」と日ごろ思うことを話します。実現できるかは考えず、まず全部書き出したいです。あとで見返せる形にしてください。

増補もっと知りたい人へ (4)
深掘り

なぜ、仕事が回るようになると「暇だな」がやってくるのでしょうか。ひとつは、力の行き場の話です。めんどくさいことを片づけるために、あなたは頼み方や任せ方を身につけました。その力は、片づけが終わっても消えません。使い道を失った力が、次の対象を探して、そわそわする。この、そわそわが「暇だな」の正体です。だから、これは能力が余っているサインでもあります。悪いことでは、まったくありません。

もうひとつ、大事なのは、この渇きが向かう先です。片づけが終わるまで、あなたの「あったらいいのに」は、たいてい自分のほうを向いていました。自分の家事、自分の仕事、自分のめんどくさいこと。ところが、それが片づいてしまうと、願いは自然に外を向き始めます。誰かのために、何かがあったらいいのに、と。この本の著者も、同じ道を通りました。自分の作業が回るようになったあと、「同じように楽になる人を、一人でも増やしたい」に変わっていったのです。棚おろしで外向きの願いが出てきたら、それは、あなたが玄関に近づいているサインかもしれません。急がなくていいです。リストにして、眺めておくだけで、次の一歩はゆっくり見えてきます。

例をもっと

最近、家事も仕事もだいたい回るようになって、少し手が空きました。前から「あったらいいのに」と思っていたことを、思いつくまま言うので、あとで一覧にまとめてください。まだ作るかは決めません。

やることが減って、逆に落ち着かないです。この気持ちの正体を一緒に整理して、そのうえで「次にやってみたいこと」の候補を、私の話から拾って並べてください。

「こんなサービスがあったらいいのに」と日ごろ思うことを話します。実現できるかは考えず、まず全部書き出したいです。あとで見返せる形にしてください。

自分のためでなく、誰かのためにできそうなことを考えたいです。私の身の回りで「困っている人がいそうなこと」を、私が挙げるので、一覧にして整理してください。

(医療者向け・ダミーデータ前提)業務が効率化できて時間ができたので、「あったら現場が助かりそうなもの」を挙げたいです。具体的な患者情報は出さず、仕組みの話だけで棚おろしを手伝ってください。

ごろつまずき集
  • 症状: 「暇だな」を、悪いことだと思って落ち込む。原因: 物足りなさを、余った時間のむだと受け取っている。一手: これは力の行き場を探すサインだ、と読み替えます。次にやりたいことを教えてくれる合図です。
  • 症状: 「あったらいいのに」が、うまく出てこない。原因: 「立派なアイデアを出さねば」と身構えている。一手: ひねり出さず、日ごろの小さな不便や「これ面倒だな」から拾います。願いは、もう自分の中にあります。
  • 症状: 出した願いを、その場で全部作ろうとして、どれも中途半端になる。原因: 棚おろしと制作を、いっぺんにやろうとしている。一手: 今日は出すだけ。作るのは、一覧から一つ選んでから。ごろが一つに絞り直したのが、これです。
  • 症状: 一覧を作ったのに、そのまま忘れてしまう。原因: どこに置いたかわからなくなった。一手: いつも見る場所に一覧を残します。手が空いた朝に、そこから一つ選べるようにしておきます。
余談: のび太の力

『ドラえもん』の主役は、どちらなのだろう、とときどき考えます。ポケットから道具を出すのはドラえもんです。でも、「あんなこといいな、できたらいいな」と言えるのは、のび太だけです。道具は、願いを言う人がいて、はじめて出てきます。私はこれを勝手に「のび太の力」と呼んでいます。賢さより、あったらいいなと言える力。私はそれを、のび太の力だと思っています。そして、もうひとつ。もし「あったらいいのに」がひとつも浮かばないなら、AIは要りません。聞きたいことがないなら、無理に聞かなくていい。それは、いまの暮らしで足りているということでもあって、少しも悪いことではないのです。この章でごろが最初にやったのが、道具の勉強ではなく「あったらいいのに」の棚おろしだったのは、そういうわけです。

あせらず、ゴロゴロ。
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