しくじりに、一つだけ共通していたこと
強さより、見える範囲。速さより、追える数。
(配置: 8章の後、F-2の直後)
二つのしくじりを並べてみて、気づいたことがあります。
並べすぎて分からなくなった話(F-1)も、いちばん強いのを全部に使った話(F-2)も、根っこは同じでした。どちらも私は「多いほど、強いほど、いい」と思って、アクセルだけを踏んでいたのです。
数を増やせば速くなると思って、見えなくなった。強さを上げれば得だと思って、燃料を溶かした。増やした瞬間も、上げた瞬間も、たしかに気持ちよかった。でも、どちらも手元に残ったのは「何が起きたのか分からない」でした。派手に動かした量と、実際にできあがった量は、まるで比例していませんでした。
限界はいつも、道具ではなく、こちらが見ていられる範囲のほうにありました。強さより、見える範囲。速さより、追える数。 道具をどれだけ良くしても、こちらの目と注意が広がるわけではありません。むしろ道具が強く多くなるほど、自分の見える範囲を、超えやすくなる。しくじりは、決まってその境目で起きていました。
だから今は、何かを増やす前・強くする前に、一つだけ自分に聞くようにしています。「これ、ちゃんと見ていられる?」。答えがはいなら、進める。あやしいなら、増やさず、一つずつにする。
強い道具も、たくさんの相棒も、見える範囲の中で使うぶんには、ちゃんと味方になってくれます。はみ出した瞬間だけ、牙をむく。それだけのことでした。

見える範囲で並走させる交通整理は7-3、増やしたものを止める手当ては14-3、強さを配り分ける考え方は8-4に、それぞれ本編で書いています。この三つは全部、「見える範囲を超えない」ための工夫です。
>一つだけ、打ち明け話を足します。この本の叩き台を書いていたときにも、私は章をいくつも並行で書かせていて、途中で上限にぶつかって止まりました。原稿の中で「見える範囲を超えるな」と書いている当人が、その原稿を作りながら、同じ轍を踏んでいたわけです。しくじりは、こうして何度でも戻ってきます。だから私は、机の端にこの一言を貼っています。強さより、見える範囲。
あせらず、ゴロゴロ。
その一言を貼ったあと、実際にどう使っているかをそのまま出します。この本の続きを書いていた日のことです。私はまた、章をいくつも同時に書かせたくなりました。増やす手応えは、何度学んでも気持ちがいいのです。指が動く前に、机の端の付箋を読み、相棒にこう聞きました。
ごろが打った文これから章を四つ、同時に書かせようとしています。私が一度に見ていられるか、正直に一緒に見積もって。無理そうなら減らす案を出して。
一回目の返事は、少し優等生でした。
相棒の返答四つの同時進行も、各章の要点を先に決めておけば管理できます。まず全章の見出しを並べ、それから並行して書き進めましょう。(…段取りの提案が続く…)
画面で見えること「四つ、いけます」寄りの前向きな段取り案。
これは、私が本当に聞きたかったことと少しズレていました。私は「やり方」でなく「私の目が四つを追えるか」を聞いていたのです。そこで、聞き方を直しました。
ごろが打った文段取りでなく、私の負担の話です。前に四つ並べて見失った実話があります。今日はまず一つでいいか、二つが上限か、私の様子を思い出しながら一緒に決めて。
相棒の返答それなら、まず一つに絞るのが安全だと思います。前回は同時進行で「どれが何待ちか」を見失った、というのが実話でしたね。今日は一章を仕上げてから次を開く形にして、残りは順番待ちに並べておきましょう。四つ同時は、見える範囲を超えます。
画面で見えること「まず一つ、残りは順番待ち」というブレーキ寄りの答え。
二回目でようやく、私が欲しかったブレーキ役の返事になりました。その日はこう進めました。
[やろうとしたこと] 章を四つ同時に執筆
[増やす前の一問] 「これ、ちゃんと見ていられる?」→ あやしい
[決めたこと] 一章を仕上げてから次を開く。残り三章は順番待ちの列へ
[結果] 一章ずつ確実に上がり、どれが何待ちかを見失わずに済んだ一回目のように、相棒は最初は前向きに乗ってくることがあります。こちらが「やり方」でなく「私が見ていられるか」を聞き直すと、ブレーキ役に回ってくれます。 この日はこう返ってきましたが、聞き方しだいで返り方は毎回すこし違います。
増やす前・強くする前に、一度だけ立ち止まる手順です。
手が動く前に、増やす合図に気づく(1行)
こうした方がいい「もっと並べたい・もっと強くしたい」と思った瞬間を、立ち止まりの合図にする
ごろはこうしてみた章を四つ書かせたくなった、その気持ちよさ自体を合図にしました。
机の端の一問を読む(1行)
こうした方がいい頭の中でなく、物として貼った一言「これ、見ていられる?」を目で読む
ごろはこうしてみた付箋を実際に読んでから、相棒に相談を始めました。
相棒には「やり方」でなく「私の負担」を聞く(1行)
こうした方がいい段取りでなく、自分が追える数を一緒に見積もってと頼む
ごろはこうしてみた一回目でズレたので、「私が四つを追えるか」に聞き直しました。
あやしければ、一つに絞る(1行)
こうした方がいい迷ったら増やさない。残りは順番待ちの列に並べる
ごろはこうしてみた「まず一章、残りは待ち」に決め、四つ同時をやめました。
一つ仕上げてから、次を一つだけ呼ぶ(1行)
こうした方がいい送り出してから次を招く。同時に開く数を、見える範囲の中に保つ
ごろはこうしてみた一章確定ごとに次を開き、最後まで見失いませんでした。
作業の途中で「いま何が途中か」を一行で言えるかです。すぐ言えれば、見える範囲の中にいます。言葉に詰まったら、そこが境目です。すぐ一つに絞ります。
あなたの番3分そのまま使える文例です。コピーして、自分の言葉に少し変えて使ってみてください。
これから三つの作業を頼もうとしています。私が一度に追えるのはどれくらいか、正直に一緒に見積もって。無理そうなら、減らす提案をして。
この作業、いったん一つに絞ってやりましょう。他は順番待ちに並べておいて、終わってから次を出して。
増補もっと知りたい人へ (4)
F-1とF-2、二つのしくじりが根っこで同じだったのは、どちらも「増やす・強くする」のつまみだけを触っていたからでした。数を増やす、強さを上げる。このつまみは回した瞬間に手応えがあり、しかもたいてい、その場では気持ちがいい。でも手応えと成果は別物で、増やした量がそのまま成果になるわけではありません。足りなかったのは、もう一つのつまみ、つまり自分がどこまで見ていられるか、という上限のつまみでした。 アクセルだけを踏んで、見える範囲というブレーキを見ていなかった。しくじりは決まって、その差がはみ出したところで起きていました。
だから今の合図は、増やす前・強くする前の一問だけです。「これ、ちゃんと見ていられる?」。はいなら進める、あやしいなら一つずつ。強い道具も多くの相棒も、見える範囲の中では味方でいてくれて、はみ出した瞬間だけ牙をむく。原則は一つに畳めます。増やす前に、まず見えるかを問う。それだけのことでした。
増やす前・強くする前に、自分と相棒に一言はさむ言い方です。
これから三つの作業を頼もうとしています。私が一度に追えるのはどれくらいか、正直に一緒に見積もって。無理そうなら、減らす提案をして。
今の私の状況を一行でまとめて。頼みごとを増やす前に、いま何が途中か確かめたい。
この作業、いったん一つに絞ってやりましょう。他は順番待ちに並べておいて、終わってから次を出して。
大きな相手や深い設定に上げる前に聞きます。この用事、本当に強さや深さが要りますか。要らないなら軽く済ませて。
(医療者向け・ダミーデータ前提)架空のケースを複数まとめて処理したくなったら、まず一件で型を作り、私が見て納得してから残りに広げる、の順で進めて。
つまずき集- 症状: 気づくと、また増やしすぎている。原因: 増やす手応えが気持ちよくて癖になる。一手: 増やす前の一問「見ていられる?」を、作業の入口に貼っておく。
- 症状: 一問を飛ばして先に走り出す。原因: 勢いがついているときほど問いを飛ばす。一手: 止まる合図を相棒側に持たせる。区切りで必ず聞いてもらう。
- 症状: 見えなくなってから気づく。原因: はみ出す前の予兆を見ていない。一手: 「思い出せない・追えない」が一度でも来たら、そこが境目。すぐ一つに絞る。
- 症状: 原則は分かったのに、また同じ轍を踏む。原因: 分かったことと、その場でできることは別。一手: しくじりは戻ってくる前提で、合図を机の端に物として置く。頭でなく目に入れる。
しくじり帖四本(F-1〜F-4)は、F-1〜F-3が「増やす・強くする」の沼、F-4が「言葉と権限」の沼という二系統です。F-1〜F-3は講座の一コマ「AIを増やす前に立ち止まる」にそのまま収まります。前半でF-1・F-2の二つの転び(並べすぎ・全開づかい)を実演で見せ、後半でF-3の一原則「強さより、見える範囲」に束ねる流れです。M3連載なら見せ場が明確に三つ立つので3回分、各回に実演と停止点を一つずつ置けます。日経メディカルのコラムなら、資源配分と取りこぼしの話として1本にまとめられます。ワークショップは、三本の各ワークをつなげて30分の連続ワーク(並べる→仕分ける→増やす前に問う)に組めます。
